清澤のコメント;多発性硬化症の原因やその病態はいまだにわかったというわけでもなく、様々な亜形も分離されてきました。視神経炎が単独に見られた場合、それが多発性硬化症の最初の症状であるかそれ以外のものであるのかの区別がつかないので、これを「臨床的に孤立した症候群(Clinically Isolated Syndrome, CIS)と呼びます。それでこの論文の題もような題名になっています。
この研究では、高用量のビタミンD(コレカルシフェロール)を2週間ごとに経口投与することで、多発性硬化症(MS)の前段階とされる臨床的に孤立した症候群(CIS)や早期の再発寛解型MS(ERM)の疾患活動性が低下するかを調査しました。
303名の患者を対象に24ヶ月間の追跡調査を行った結果、ビタミンDを投与した群では疾患活動性が低下し、新規病変や造影増強病変の発生が減少しました(疾患活動性発生率:ビタミンD群60.3%、プラセボ群74.1%)。MRI画像での病変数の減少も確認され、疾患進行を抑制する可能性が示唆されました。
一方で、再発率や臨床的な症状改善には大きな差は見られず、さらなる研究が必要とされています。ビタミンD補給がMSの進行を遅らせる可能性があることが確認されましたが、効果の詳細を明らかにするためには追加の試験が求められます。
緒言;
多発性硬化症(MS)の発症には、女性、肥満、喫煙、エプスタイン・バーウイルス感染、ビタミンD欠乏症などの危険因子が関与します。MSは通常、中枢神経系に影響を及ぼす急性エピソードから始まりますが、臨床的に孤立した症候群(CIS)が必ずしもMSへ移行するとは限りません。
MSへの移行リスクを決定する要因として、脳脊髄液オリゴクローナルバンドの存在、脳MRIのT2/FLAIR病変の多さ、若年性が挙げられます。また、ビタミンD濃度の低下はMSの再発や障害の発展と関連していると考えられています。ビタミンDは免疫調節作用を持ち、MSの活動性および進行抑制に有効である可能性があります。
ビタミンD補給とインターフェロンβとの併用療法についての研究では、主要評価項目において有意差は認められなかったものの、病変の減少などの潜在的な利点が示唆されました。また、未治療の視神経炎患者におけるビタミンD単独療法は、再発およびMRI活動の抑制に有効であると示されました。
一方で、CIS患者を対象としたビタミンD補給試験では、臨床的・放射線学的有益性が確認されず、大規模なランダム化臨床試験の必要性が示されました。本研究は、最近のCIS患者を対象に、疾患活動性の低下を評価することを目的としています。
では、CISとは何でしょうか?:
臨床的に孤立した症候群(Clinically Isolated Syndrome, CIS)とは、多発性硬化症(MS)の初期段階と考えられる症状のことです。CISは、中枢神経系(脳、脊髄、視神経)に炎症や脱髄が生じることで発症するものの、必ずしもMSへと進行するわけではありません。
CISの特徴として、以下の点が挙げられます:
- 単一の神経症状(例:視神経炎、脊髄炎、脳幹症候群)が少なくとも24時間持続する。
- 発熱や感染症とは無関係に発症する。
- MRI検査で脱髄病変が確認されるが、MSの診断基準を完全には満たさない。
CISの患者のうち、一部はMSへと進行しますが、そのリスクは脳脊髄液中のオリゴクローナルバンドの有無やMRIでの病変数などによって異なります。このため、CISの段階で早期治療を行うことで、MSへの移行を抑制できる可能性があると考えられています。
この研究では、高用量ビタミンDの補給がCISの疾患活動性を低下させるかを検討しており、MSへの進行を防ぐための治療法としての可能性が論じられています。
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