先日は燕青を紹介しましたが、この作品にはもう一人片目の勇者が描かれておりました。失ったのが右眼か左眼かも絵によって不定です。更にこの穆弘は原典では、片目を戦で失う設定ではなかったそうです。
◆ 北方水滸伝における穆弘の登場巻と重要エピソード
● 初登場:第5巻『旌旗の章』
穆弘は、弟・穆春とともに江南・清風山の山塞の頭目として登場します。この巻では、宋江と晁蓋の一行が清風山に立ち寄り、当初は誤解により敵対するものの、後に誤解が解けて和解します。
「宋公、あんたのような男が、まだこの世にいたか……」
――第5巻、穆弘が宋江に心を開いた際のセリフ
● 重要場面:第10巻『青嵐の章』
ここでは、穆弘が敵との戦いで片目を負傷する場面が描かれます。彼は部下を守るために自ら囮となり、右目を深く斬られるが、傷をものともせずに敵の大将を討ち取る描写があります。
「この目が潰れても、守るべきものを見失ったことはない」
――負傷後に仲間に言った穆弘のセリフ
このセリフは、彼が身体の損傷以上に「信念と仲間」を重視していることを象徴しています。
● 義眼を拒む場面:第13巻『晩雷の章』
戦後、義眼を勧められるが、穆弘はそれを拒絶します。その理由は、失われた目こそが戦いの証であり、己の誇りであるからです。
「見えぬものを見ようとするのは、見える者の驕りだ。俺は、この闇でこそ真実を感じている」
――穆弘、第13巻にて
◆ エピソードの意義と象徴性
北方版の穆弘は、失明という身体的喪失を通じて、精神的な「視力」を得るという比喩的な変化を遂げています。
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片目=「過去に縛られない新たな視座」
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義眼を拒否する=「不完全さを受け入れる強さ」
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「闇でこそ真実を感じる」=北方版における信念の深化
◆ 補足:原典との違い
原典『水滸伝』では穆弘に片目を失う描写はなく、あくまで猛将・義兄として登場します。北方水滸伝ではその背景に「負傷・代償・自己との対峙」という心理的要素が付け加えられ、より近代的な人物像として再構築されています。
この様に原典では失明してはいません。
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