若年層に多い視覚の不思議な症候群──「ビジュアルスノウ症候群」と片頭痛の関連に関する日本発の研究
自由が丘清澤眼科では、まれながらも相談のある視覚の異常、「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome, VSS)」に注目しています。この症候群は、視野全体に小さなちらつく点(いわゆる「雪」や「砂嵐」のような像)が見え続けるという、まるで古いテレビのノイズのような症状を特徴とします。
このたび、私 清澤が共著者として参加した日本初の本格的研究が、国際頭痛学会の学術誌「Cephalalgia」に掲載されました。本研究では、日本におけるVSSの臨床的特徴と、片頭痛との関連性、さらには左右眼の屈折差(不同視)との関係について検討しました。最新のインパクトファクターは 2024年版で4.61です
■背景:片頭痛との深い関係と眼科的な視点
これまでの欧米の研究では、VSSは20~30代に多く、約7割の患者が片頭痛の既往を持つことが報告されています。しかし、健康な対照群との直接比較は少なく、VSSの視覚症状と片頭痛の関係は未解明な部分も多く残っていました。
また、眼科的には、VSSの患者の多くで視力や視野、OCT検査が正常とされてきました。しかし今回の研究では、**左右眼の球面等価屈折値の差(不同視=anisometropia)**に注目し、VSSとの関連を新たに検討しました。不同視は、両眼視機能の低下や画像の大きさの違い(不等像)につながるため、視覚の違和感に関係している可能性があります。
■研究方法と対象
本研究では、VSSの診断基準を満たす患者148名(男性54名、女性94名、平均年齢30歳)と、年齢・性別を調整した健康対照群157名を対象に、以下の項目を比較しました:
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左右眼の球面等価屈折値の平均および差(不同視の程度)
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片頭痛の有無
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VSSに伴う症状(残像・内視現象・夜盲・羞明・聴覚過敏・耳鳴)と片頭痛との関連性
統計解析にはロジスティック回帰分析を用いました。
■主な結果と所見
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VSS患者群では、片頭痛の有病率が有意に高く、不同視の程度も有意に大きいことが確認されました。
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また、VSSにおける残像(パリノプシア)と片頭痛との間には統計的に有意な関連が認められました。
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さらに、経過観察中に自然軽快が見られた症例が10例あり、VSSが必ずしも進行性ではない可能性も示唆されました。
■まとめと今後の展望
今回の研究は、日本におけるVSSの臨床像とその視覚症状、片頭痛や不同視との関係を明らかにした初の大規模研究です。
片頭痛とVSSの強い関連は、神経眼科的な側面だけでなく、眼科的な視覚情報処理異常とも関係している可能性があり、今後のVSS診療において「不同視の評価」が一つの手がかりとなるかもしれません。
私自身も本研究に参加した立場として、VSSが単なる「目の病気」ではなく、脳と視覚処理に関わる広範な疾患であることをあらためて実感しています。自由が丘清澤眼科では、VSSを疑う方にも丁寧な問診と屈折検査を通じた評価を行っています。
論文情報
Suzuki Y, Kiyosawa M, et al. Characteristics of visual snow syndrome in Japan and its association with migraine. Cephalalgia. 2025;45(7):1–10.
https://doi.org/10.1177/03331024251360337
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