小児の眼科疾患

[No.3805] 木村亜紀子先生ご講演「斜視診療のポイント」聴講印象記

木村亜紀子先生ご講演「斜視診療のポイント」眼科臨床実践講座 聴講印象記

斜視診療のエキスパートである木村亜紀子先生によるご講演を拝聴し、日常診療で見落としがちな視点や、的確な診断のコツについて多くの学びが得られました。以下、講演の中から印象に残ったポイントを私なりに整理いたします。


① 動眼神経麻痺と滑車神経麻痺の鑑別

動眼神経麻痺に滑車神経麻痺が合併しているかどうかを見極める方法として、細隙灯顕微鏡下での観察が有効であるとのことでした。麻痺眼とは反対側を注視させた上で下方視させた際、滑車神経麻痺がなければ、麻痺眼は上斜筋の作用により内旋するため、その動きを確認することが重要です。小さな眼球運動の差異に注目することで、合併の有無を見抜くという、熟練のコツを感じました。


② スマートフォン関連の急性後天共同性内斜視

近年若年者に急増している「スマホ斜視」についてのご説明も興味深い内容でした。長時間にわたりスマートフォンやタブレットを至近距離で使用することで、内直筋が過剰に使われ、目が内側に固定されてしまう病態です。物が二重に見えるという複視が主症状で、視能検査や眼球運動の評価により診断されます。まずは使用時間の制限が基本対応となりますが、改善が見られない場合には、ボトックス注射によって内直筋の緊張を一時的に緩和し、斜視角の改善を図る治療法も紹介されました。生活習慣の見直しと早期対応が、予後を左右する重要な要素となります。


③ 乳児の外斜視と注意点

新生児の約6〜7割に見られる一時的な外斜視については、多くが生後6か月までに自然消失しますが、それ以降も持続する場合は病的な斜視の可能性を考慮すべきとのことでした。ご家族への説明の際には、「赤ちゃんは時々目がずれるもの」と安易に済ませず、経過観察と早期の専門医受診の重要性を伝える必要があると感じました。


④ 中高年に見られる複視の鑑別:眼科窮屈症候群とサギングアイ症候群

成人期以降に複視を訴える患者に対しては、眼科窮屈症候群とサギングアイ症候群の鑑別が求められると解説されました。

眼科窮屈症候群は、もともと眼窩が狭い、あるいは強度近視で眼軸が長くなっているために、外眼筋や脂肪などの内容物が詰まり、筋肉の動きが制限される状態です。眼球突出が目立たない場合でも、若年者で複視が持続するケースでは本疾患を疑う必要があります。

一方のサギングアイ症候群は、加齢により外直筋を支える靭帯が弛緩し、眼球の位置が微妙に下垂・偏位することで複視を引き起こす病態です。外転神経麻痺と見分けがつきにくいこともありますが、MRIでの画像評価により外直筋の位置低下が確認されれば、本症候群と診断されます。

どちらの疾患も複視を呈する点では共通していますが、解剖学的背景が異なるため、適切な鑑別診断と、それに応じた治療方針が求められます。


おわりに

木村先生のご講演は、病態の理解だけでなく、実際の臨床での「診る眼」を養う上で多くの示唆に富むものでした。斜視診療においては、解剖と機能、そして観察の工夫が診断と治療の鍵となります。今後の診療に早速取り入れていきたいと思える内容でした。貴重なご講演に感謝申し上げます。

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