コロナ禍で増えた「自宅での転倒死」――高齢者に何が起きていたのか;論文紹介
目的
高齢者の転倒は、骨折や頭部外傷を通じて命に関わる重大な問題です。今回紹介する研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行開始後、米国で高齢者の転倒による死亡がどのように変化したのかを明らかにすることを目的としています。特に、「どこで亡くなったのか」という場所に注目し、在宅環境の影響を検討しています。
方法
研究者らは、米国疾病予防管理センター(CDC)が公開している大規模統計データベースを用い、2015年1月から2020年12月までの転倒関連死亡を後ろ向きに解析しました。対象は65歳以上の高齢者で、死亡場所を「自宅」「医療施設」「介護施設」などに分類しています。
解析では、パンデミック前(2015年1月〜2020年2月)と、パンデミック発生後でワクチンが一般に利用可能となる前の時期(2020年3月〜12月)を比較しました。総計19万2586件の転倒関連死亡が解析対象となり、月平均の死亡数はパンデミック前が約2614人、パンデミック後が約3051人でした。
結果
パンデミック開始後、転倒による死亡はすべての年齢層・性別・死亡場所で増加していました。特に注目すべきは、自宅での転倒死が有意に増加していた点です。
自宅での転倒による死亡は、パンデミック前と比べて約1.25倍に増えており、統計学的にも明確な差が認められました。一方で、ホスピス施設や介護施設、その他の場所では、明確な増加は認められませんでした。
結論
この研究は、コロナ禍による外出制限や社会的孤立、医療・介護サービスへのアクセス低下が、高齢者の在宅での安全性を損なった可能性を示しています。とくに一人暮らしや、日常的な見守りを必要とする高齢者にとって、自宅は必ずしも安全な場所ではなくなっていたことが浮き彫りになりました。
著者らは、今後のパンデミックや災害時には、訪問看護師や在宅介護支援を維持・強化する体制整備が不可欠であり、それが結果的に医療機関の負担軽減にもつながると指摘しています。
限界
本研究は死亡診断書の情報に基づいているため、実際に転倒が起きた正確な場所や、その後にどのような医療が行われたかまでは分かりません。また、基礎疾患やフレイル(虚弱)、併存症の情報が含まれていない点も限界として挙げられています。
眼科医としてのコメント
この論文の結論に異議はありませんが、高齢者の転倒は、視力低下や視野障害が関与していることも少なくありません。コロナ禍では受診控えにより、白内障や緑内障、加齢黄斑変性などが十分に管理されていなかった可能性も考えられます。「外に出ないから安全」ではなく、「家の中こそ注意が必要」という視点が重要です。視力の定期チェックや、眼鏡の見直し、室内照明の改善など、眼科としてできる転倒予防にも、今後さらに取り組んでいきたいと思います。更に自分が年を取って感ずるのは、体力低下による自分の体のバランスを保つ能力の低下です。外出控えは運動不足によっておこる筋力の低下をきたします。、それは、いわゆるフレイルを引き起こしますからその影響が大きいはずとと感じました。この文献も星進悦先生に紹介してていただきました。
出典
Hoffen J, et al.
Fall-related fatalities among older adults before and after the onset of the COVID-19 pandemic.
Journal of the American Geriatrics Society.
オンライン公開:2025年12月27日



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