白内障手術は加齢黄斑変性を悪化させるのか? ―最新研究が示した安心材料―
加齢とともに増える代表的な眼の病気として、「白内障」と「加齢黄斑変性」があります。白内障は水晶体が濁ることで視力が低下する病気であり、手術によって改善が期待できます。一方、加齢黄斑変性(AMD)は網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、視力低下や歪みを引き起こす病気です。
これまで臨床の現場では、「白内障手術を行うと加齢黄斑変性が悪化するのではないか」という懸念が一部で指摘されてきました。その理由の一つとして、白内障手術後は濁っていた水晶体が取り除かれるため、網膜に届く光、特に青色光や紫外線が増え、それが網膜に悪影響を及ぼす可能性が考えられていたからです。しかし、これまでの研究結果は一致しておらず、明確な結論は出ていませんでした。
今回紹介する研究の目的は、この点を明らかにすること、すなわち「白内障手術が、加齢黄斑変性のうち比較的初期の状態(非新生血管型)から、より進行した状態(新生血管型)へ移行するリスクを高めるのか」を検証することでした。
研究方法としては、大規模な後ろ向きコホート研究が行われました。対象となったのは60歳以上の患者で、白内障手術を受けた約12万2000人と、手術を受けていない同数の人々を比較しています。両群は年齢や背景因子が一致するようにマッチングされており、公平な比較が行われています。そして、2年間にわたり、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の発症率が追跡されました。
その結果、白内障手術を受けた群と受けていない群の間で、新生血管型加齢黄斑変性の発症リスクに有意な差は認められませんでした。どちらの群でも発症率は2年間で1%未満と低く、統計学的にも有意差はないという結果でした。
この研究の結論として、白内障手術は加齢黄斑変性を進行させる要因ではない可能性が高いと考えられます。つまり、これまで懸念されていた「手術によってAMDが悪化するのではないか」という問題に対して、一定の安心材料が得られたと言えるでしょう。
もちろん、この研究は後ろ向き研究であり、すべての条件を完全にコントロールできているわけではありません。しかし、12万人以上という大規模なデータに基づく結果である点は非常に重要であり、日常診療において参考になるエビデンスといえます。
出典
JAMA. 2026;335(11):930.
Samantha Anderer. Cataract Surgery Not Linked With Macular Degeneration Progression
doi:10.1001/jama.2025.26398
眼科医清澤のコメント
白内障と加齢黄斑変性を併せ持つ患者さんは非常に多く、「手術で悪化しませんか?」という質問は日常診療でよく受けます。本研究は、その不安に対して安心できる根拠を与えるものです。視力改善のメリットを考えれば、過度に手術をためらう必要はないと考えますが、個々の病状に応じた慎重な判断は引き続き重要です。



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