直径1cmの腎結石があり外部からの破砕が出来なかったので、尿道からの手術を受けるという患者さんがいます。このお患者さんは原発解放隅角緑内障があって、中等度の視野欠損もありますが、腎疾患と緑内障の間に注意すべき関連は考えられるか調査してみました。
腎結石と原発開放隅角緑内障の関連はあるのか
―腎疾患と眼疾患の意外な共通点―
腎結石のために泌尿器科で治療を受ける患者さんが、同時に緑内障を持っていることは珍しくありません。今回のように直径1cmほどの腎結石では、体外衝撃波砕石術(ESWL)が難しく、尿道から内視鏡を入れて石を砕く手術(経尿道的結石手術)が行われることがあります。このような患者さんに原発開放隅角緑内障(POAG)がある場合、腎疾患と緑内障の間に注意すべき関連があるのかという点は、臨床上しばしば気になる問題です。
まず結論から言えば、腎結石そのものが緑内障を直接引き起こすという明確な医学的証拠は現在のところありません。しかし、腎臓の病気や腎機能の低下と緑内障の間には、いくつかの重要な共通因子が知られています。
第一に注目されているのは、血管障害と微小循環の異常です。慢性腎疾患(CKD)の患者では、腎臓の糸球体の微小血管が障害されますが、同じような微小血管障害が視神経にも起こる可能性が指摘されています。近年の疫学研究では、慢性腎機能低下がある人では緑内障の有病率が高いという報告が複数あります。腎臓と視神経はどちらも細い血管に依存しているため、全身の血管障害が両方の臓器に影響する可能性が考えられているのです。
第二に、代謝異常との関連があります。腎結石の原因として多いのはカルシウム代謝の異常や尿酸代謝の異常ですが、これらの代謝の問題は動脈硬化や血管機能にも影響します。高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病は腎疾患と緑内障の両方に関係することが知られており、いわば全身の代謝環境が両方の疾患の背景にあると考えることもできます。
第三に、薬剤との関連も注意点の一つです。緑内障治療では炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミドなど)という薬が使われることがありますが、この薬は尿中のカルシウム排泄を増やすため、長期使用では腎結石のリスクを高めることが知られています。ただし現在は点眼薬が中心であり、内服薬を長期使用するケースは多くありません。したがって今回の患者さんのように既に腎結石がある場合には、内服型の炭酸脱水酵素阻害薬を安易に使用しないという配慮が必要になります。
第四に、手術時の体位や全身管理も考慮点になります。尿管鏡手術などの泌尿器手術では、麻酔中の血圧変動や体位の変化が起こることがあります。重度の緑内障では視神経の血流が低下すると視機能に影響する可能性がありますが、中等度の原発開放隅角緑内障では通常は大きな問題になることは少ないとされています。ただし極端な低血圧や長時間の手術は避けることが望ましいため、主治医に緑内障があることを伝えておくことは重要です。
さらに最近の研究では、腎機能低下と視神経乳頭の血流低下との関連も議論されています。腎臓と視神経はどちらも細い血管で栄養される臓器であるため、全身の血管内皮機能が低下すると両方に影響が出る可能性があります。このような観点から、腎疾患と緑内障は「微小血管障害」という共通の背景を持つ疾患群の一部であると考える研究者もいます。
以上をまとめると、腎結石そのものが緑内障を悪化させるわけではありませんが、腎臓の病気と緑内障にはいくつかの共通した医学的背景があります。特に重要なのは、①全身の血管障害、②代謝異常、③薬剤の影響、④手術時の全身管理です。したがって腎結石の手術を受ける患者さんでは、緑内障の存在を泌尿器科医に伝え、必要に応じて内科的な全身管理を行うことが望ましいと言えるでしょう。
眼科医の立場から見ると、緑内障は眼の病気であると同時に、全身の血管や代謝の状態を反映する病気でもあります。腎臓や心臓など他の臓器の病気と合わせて患者さんの全身状態を考えることが、長期的な視機能の維持にもつながると考えられます。



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