ビジュアルスノウ

[No.3686] 視界にちらつきが見える「ビジュアルスノウ症候群」――脳の活動パターンに異常が?:新論文紹介

視界にちらつきが見える「ビジュアルスノウ症候群」――脳の活動パターンに異常が?

 ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)とは、視界全体に砂嵐のようなチラチラとした小さな点が常に見えるという珍しい状態です。まるで古いテレビのノイズのように見えるこの症状に加え、残像が残りやすい、光に過敏になる、薄暗い場所で見づらい、飛蚊症が気になるなど、さまざまな視覚的な異常を伴います。さらに、片頭痛や耳鳴り(耳の中で音が鳴る)が共通して見られることもあります。

この疾患は現在のところ、明確な検査法や治療法が確立されていません。世界人口の約2.2%が何らかの形でこの症状を抱えていると推定されており、医学的な理解が求められています。


「脳波の一瞬の動き」からビジュアルスノウを探る

今回の研究(Aeschlimannら)では、脳波(EEG)の中でも「マイクロステート」と呼ばれる一瞬の脳の活動パターンに注目しました。これは、脳がどのように情報を処理しているかをほんの数百ミリ秒単位で捉える“スナップ写真”のような指標であり、統合失調症、うつ、耳鳴り、片頭痛などでも異常が報告されています。

研究では、VSS患者21名健常者21名を比較しました。全員が目を閉じて安静にしている間の脳活動を20分間記録。以下の4タイプのマイクロステートを解析しました:

  • Aタイプ:聴覚と視覚の処理

  • Bタイプ:視覚処理

  • Cタイプ:身体感覚と感情

  • Dタイプ:注意力や思考


結果:VSSの脳は「不安定」で「まとまりに欠ける」

VSS患者では次のような特徴が見られました:

  • マイクロステートの持続時間が短く、すぐに変化してしまう

  • 脳波の振幅(強さ)も小さく、活動が弱い

  • 感覚処理(A)から視覚処理(B)への移行が多く、感覚処理から身体意識(C)への移行が少ない

これらの結果から、VSS患者の脳内ネットワークは不安定で、整理されていない傾向があることがわかりました。特に、感覚や視覚処理を担う領域での情報のやりとりに偏りがあると考えられます。片頭痛を持たないVSS患者でも同様の結果が見られたため、これはVSSそのものに関係する脳の異常と考えられます。


今後の展望:脳のバランスを整える治療へ

この研究は、VSSが「視覚だけの問題ではなく、脳全体のネットワークの異常」であることを強調しています。今後は、脳の活動パターンを安定させる反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)などの治療法に期待が集まります。また、マイクロステートの解析は、VSSの診断や治療効果の評価にも活用できる「脳の指紋」としての可能性を持っています。


院長コメント:

私たち眼科医にとって、VSSはまだ謎が多い疾患ですが、今回の研究はその脳の可視化に向けた一歩です。患者さんが「常にちらつきが見える」と訴えたとき、精神的な問題ではなく、脳内の情報処理の異常による実際の症状であることを私たち医療者が理解し、対応することが求められています。

出典:

視界にちらつきが見える「ビジュアルスノウ症候群」――脳の活動パターンに異常が? 

脳波検査の安静状態の微小状態は視覚雪症候群では不安定である

初版発行: 2025 年 3 月 14

 

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