ビジュアルスノウ

[No.4243] 片頭痛の誘因は単一ではない:情報理論で「片頭痛の引き金」を読み解く新研究紹介

情報理論で「片頭痛の引き金」を読み解く新研究

――日常の“意外性”が頭痛を誘発する? 驚き(Surprisal)スコアの活用へ

片頭痛の患者さんから「何が引き金になっているのかわからない」という声をよく聞きます。天気、光、寝不足、食べ物、ストレス……。数え上げればきりがなく、医師の側から見ても“原因探しが難しい病気”の代表と言えます。

そして片頭痛は、私が診療しているビジュアルスノウ症候群(VSS)とも高頻度で合併するため、今回紹介する研究は非常に興味深い内容です。

2025年、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院の研究チームは、**「日常の出来事がどれほど“いつもと違うか”を数値化する『驚き(surprisal)スコア』」**を用いて、将来の片頭痛発作との関連を調べました。

これは「情報理論」という数学的手法を使い、日々の生活の“予測不能性”を数値に置き換えて評価しようという、新しい視点の研究です。


■ 背景:なぜ片頭痛の引き金探しは難しいのか?

片頭痛のトリガーは、食事、感情、天候、騒音、飲酒、ホルモン変化など、数百種類に及ぶとされています。

しかも人によって全く異なり、同じ人でも日によって引き金が変わることがあります。

従来は「これを食べると頭痛が出る」「寝不足になると痛い」など、単一の原因を探す方法が主流でした。しかし現実には、条件が複雑に絡みあうため、1つの要素だけを切り出して検証することが困難でした。

そこで研究者らは、「その日の出来事が、通常の自分の生活パターンからどれだけ外れているか」を考える新しい視点を採用しました。


■ 目的:生活の“予測不能性”と頭痛発作の関連を詳しく調べる

今回の研究の目的は、

「日常生活の中で起こる“意外な出来事”が、どの程度その後の片頭痛を誘発するか」

を明らかにすることです。


■ 方法:109名が28日間、1日2回の詳細な生活日記を記録

  • 対象:片頭痛を持つ109名(中央値35歳、93%が女性)

  • 期間:最大28日間

  • 内容:

    • 食事、行動、気分、環境要因などのトリガー候補を1日2回記録

    • そのデータから「驚き(surprisal)スコア」を計算

      • ※“いつもと違う”ほどスコアが高くなる

  • その後12時間・24時間以内に片頭痛が起きたかを評価

「驚きスコア」は、例えば

  • いつも飲むコーヒーを飲まなかった

  • 普段より激しい運動をした

  • 急に強いストレスがかかった

など、**その人にとって「非日常」だった行動ほど高くなります。


■ 結果:スコアが高いほど、12–24時間以内の片頭痛リスクが上昇

解析の結果、以下が明らかになりました。

●「驚きスコア」が高い日は片頭痛が増える

  • 12時間以内:オッズ比 1.86

  • 24時間以内:オッズ比 2.15

つまり、“その日いつもと違うことがあった”日は翌日の頭痛リスクが約2倍になるという意味です。

さらに興味深い点として、

●“驚き”の影響には個人差が大きい

驚きに敏感な人、そうでない人がいて、効果は一様ではありませんでした。

しかし個人差を調整してもなお、高い驚きスコアは片頭痛の強い予測因子であることが確認されました。


■ 結論:片頭痛管理を“個別化”する新しい指標に

研究者らは次のように結論づけています。

●驚きスコアは、片頭痛の新しい予測指標として有用

●「静的なトリガーリスト」から

「日常生活の文脈に応じた、個別化された予測モデル」へ

今後、スマートフォンのアプリにこの驚きスコアが組み込まれれば、

「今日は頭痛のリスクが高いから、早めに休もう」

「外出予定を調整しよう」

といった“自分専用の予防”が可能になるかもしれません。


■ 清澤眼科院長としてのコメント

片頭痛は眼科でもよく出会う症状で、特にビジュアルスノウ症候群と併発するケースでは生活の質にも深く影響します。

トリガーが1つではなく、「パターンの変化」に注目するという今回の研究は、VSSの症状悪化とストレス・生活リズムの乱れが関係することと通じる視点を提供してくれます。

これからは「何をしたか」だけでなく

“いつもと比べて、どれだけ生活が乱れたか”

という視点が、片頭痛や視覚過敏症状の管理に役立つ可能性があります。

患者さんにも、

「大きな出来事だけでなく、小さな生活の乱れも体調に影響する」

という理解を広めるうえで、とても重要な研究だと感じました。

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