ビジュアルスノウ

[No.4379] ビジュアルスノウ症候群研究の最前線 ―「目の病気」から「脳のネットワーク障害」へ―:新しい総説の紹介

ビジュアルスノウ症候群研究の最前線

―「目の病気」から「脳のネットワーク障害」へ―

(今日は、新しい総説論文を紹介します。)


背景

ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)は、視界に常に細かな砂嵐のような点が見える「ビジュアルスノウ現象」を中心とした、慢性的な視覚症状の集まりです。残像が消えにくい(パリノプシア)、光がまぶしい(羞明)、暗い場所で見えにくい(夜間視力障害)、体内の光点や血球が目立つ(内視現象)などが同時にみられることが多く、耳鳴りや片頭痛、不安・抑うつを伴うこともあります。

眼科検査や通常の脳画像では異常が見つからないことが多く、患者さんは「原因不明」と説明され、長年苦しんできました。

目的

本論文は、過去約18か月間に発表されたVSS研究を整理し、病態生理の理解がどこまで進んだのか、また治療研究が現在どの段階にあるのかを概説することを目的としています。

方法

電気生理学的研究(脳波など)、構造的・機能的MRI研究、神経伝達物質に関する報告、さらに薬物療法および非薬物療法の臨床研究を対象に、最新文献を総合的にレビューしています。

結果(病態生理の理解)

近年の研究により、VSSでは視覚を担う大脳皮質が過剰に反応していることが示されました。またMRI研究からは、一次視覚野だけでなく、注意ネットワーク、感情に関わる辺縁系、さらには視床を含む複数の脳領域の間で、微細な構造変化や機能的結合の異常が報告されています。

これらの所見は、VSSが特定の部位の異常ではなく、「脳内ネットワーク全体の調整不全(ネットワーク障害)」である可能性を示しています。とくに、視床と大脳皮質のリズム調整が乱れる「視床皮質不整脈」という概念が、症状を説明する仮説として注目されています。

治療の現状と新しい試み

現時点で、VSSに対する確立した薬物治療はありません。抗てんかん薬や片頭痛予防薬が試みられてきましたが効果は限定的で、一部の抗うつ薬では症状悪化や誘発が報告されています。

一方、近年は非薬物療法に注目が集まっています。マインドフルネスに基づく認知療法、色付きフィルター眼鏡、視覚ノイズへの適応訓練、神経眼科的視覚リハビリテーション(NORT)などが試験的に行われ、症状そのものを消すというより、症状へのとらわれを軽減し生活の質を改善する方向性が示されています。ただし、研究規模はまだ小さく、今後の検証が必要です。

まとめ

VSSは「目の異常」では説明できない、脳の情報処理ネットワークの障害として理解されつつあります。研究は大きく前進していますが、客観的評価法や確立した治療法はまだなく、さらなる臨床研究が求められています


出典

Eschlimann SA, Klein A, Schankin CJ.

Visual snow syndrome: understanding pathophysiology and treatment advances.

Current Opinion in Neurology. 2024;37(3):283–288.

doi:10.1097/WCO.00000000000001258


清澤(眼科医・ビジュアルスノウ研究者)からのコメント

ビジュアルスノウ症候群は、決して「気のせい」ではなく、脳の働き方の偏りとして理解され始めています。症状とともに生きる工夫や脳の適応を促す支援は、すでに臨床で意味を持ちます。研究の進展とともに、患者さんが安心して相談できる場を広げていくことが、今後の重要な課題だと考えています。

ビジュアルスノウ症候群の診断 ― 片頭痛、持続性視覚症状、眼疾患との見分け方の勘所 ―

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