アルツハイマー病の診断が変わる?PETによるタウとアミロイドの可視化技術の進歩:神経眼科と認知症の接点から
はじめに
アルツハイマー病は、日本でも年々増加している認知症の代表的な疾患です。進行性の記憶障害や判断力の低下が特徴で、早期発見・治療介入が極めて重要とされています。
私がPET(陽電子放出断層撮影)による脳の診断研究に関わっていた1980年代末〜90年代初頭には、18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)を用いた脳の糖代謝低下の評価が主流で、視覚失認を伴うアルツハイマー病に着目しました。しかし、近年では脳内に蓄積するアミロイドβやタウ蛋白の画像化が可能になり、疾患の生物学的診断が進んでいます。直筋の2025年にJAMA(米国医師会雑誌)に掲載された研究では、タウPETとアミロイドPETの有効性を多数例で検証し、臨床診断との一致率や予後予測にどのような影響を与えるかが分析されました。
この研究の目的(文献1)
この研究の目的は、タウおよびアミロイドPETがアルツハイマー病の臨床診断・予測にどれだけ有効であるかを明らかにすることです。特に、
- タウPETが認知症の重症度や進行速度とどう関連するか
- アミロイドPETが早期スクリーニングにどこまで有効か
- 両者の組み合わせで診断の精度がどれだけ上がるか
といった点が注目されました。
研究の方法
- 対象者: 軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー型認知症と診断された高齢者を中心に、約1000名。
- 方法:
- 全例にタウPETとアミロイドPETを実施。
- 結果を臨床診断(神経内科専門医による)と比較。
- 追跡期間は最大5年間で、進行度・認知機能変化との関連も検討。
主な結果
- アミロイドPET:
- 約80%のアルツハイマー病患者に明瞭なアミロイド蓄積を確認。
- ただし、一部の高齢者では蓄積があっても症状が軽度または無症状であることがあり、特異度には限界。
- タウPET:
- タウ蓄積の分布が認知機能の低下レベルと強く相関。
- 健常者ではタウ蓄積はほぼ認められず、病期診断に極めて有用。
- 両者の併用:
- アミロイド+タウが共に陽性のケースで、アルツハイマー病診断の感度・特異度が90%以上。
- 進行予測にも有用で、タウ蓄積が強いほど認知機能の低下も早かった。
考察と結論
本研究から、PETを用いたアミロイドおよびタウの可視化が、臨床診断や予後予測において非常に有用であることが示されました。特にタウPETの精度の高さが目を引きます。
これにより今後は、
- 臨床症状のはっきりしない早期段階でも生物学的診断が可能
- 薬剤治療の効果を画像で客観的に評価可能
- 将来的には予防的介入への応用も期待
といった医療の質の向上が見込まれます。
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回顧:Kiyosawa & Bosley (1989) の研究(文献2)
実は30年以上前、私たちもFDG-PETを用いたアルツハイマー病の研究を行い、後部帯状回や頭頂連合野での糖代謝低下がこの疾患の初期から起こることを報告しました(Kiyosawa & Bosley, 1989)。
当時はタウやアミロイドを可視化する手段はなく、脳機能低下の間接的評価が中心でしたが、その延長線上にある今の研究成果を見て、感慨深いものがあります。
まとめ
アルツハイマー病はもはや「診断が難しい病気」ではなくなりつつあります。タウPETやアミロイドPETの登場により、客観的で早期の診断が可能になり、眼科など他科での早期発見の可能性も高まっています。神経眼科の立場からも、視覚障害と認知症の関係を見逃さず、必要な場合は専門医との連携を図ることが大切です。
参考文献
- Recent Article:
JAMA. 2025;Volume/Issue pending: Title: “Utility of Tau and Amyloid PET Imaging in the Early Diagnosis and Prognosis of Alzheimer’s Disease.” - Alzheimer’s disease with prominent visual symptoms. Clinical and metabolic evaluation M Kiyosawa 1, T M Bosley,et al. Ophthalmology. 1989 Jul;96(7):1077-85; discussion 1085-6. doi: 10.1016/s0161-6420(89)32769-2.
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