アメリカで広がる「遠隔メンタルヘルス」──誰が利用し、どんな特徴があるのか?
(JAMA Psychiatry 2025年11月26日公開論文の紹介)
近年、アメリカではメンタルヘルスの受診方法が大きく変化しています。特に新型コロナ流行をきっかけに、ビデオ通話などを利用した「遠隔メンタルヘルス(テレヘルス)」が急速に普及しました。しかし、患者はどのように“遠隔”“ハイブリッド(遠隔+対面)”“対面のみ”を使い分けているのでしょうか。今回紹介する研究は、全米4720人のデータを分析し、その実態を明らかにしたものです。
背景
アメリカでは地域差や所得格差により、精神科医やカウンセラーへのアクセスが難しい人も多く存在します。COVID-19に伴う外出制限をきっかけに、遠隔での診療体験が広まり、受診しやすさは向上しました。一方で、通信環境やデジタルスキルの差によって、遠隔医療が「利用できる人」と「利用しにくい人」の二極化が生まれるのではないかという懸念がありました。
研究の目的と方法
本研究は、2021〜2022年の全国調査(Medical Expenditure Panel Survey)に参加した成人4720名を対象に、受診方法を以下の3種類に分類しました。
遠隔のみ
遠隔+対面のハイブリッド
対面のみ
さらに、年齢、学歴、収入、保険、居住地、心理的苦痛の程度などの特徴と、どの受診方法を選んでいるかの関連を分析しました。
結果:誰がテレヘルスを使っているのか?
● 利用割合
対面のみ:50.6%(最も多い)
遠隔のみ:27.8%
ハイブリッド:21.5%
● 遠隔メンタルヘルスを多く使っていたのは?
若年層(18〜44歳)
大学卒業者など高学歴層
収入が高い層
民間保険に加入している人
都市部に住む人
ソーシャルワーカーやカウンセラーによる心理療法を受けている人
心理的苦痛が軽度の人
つまり、“若く、都市部に住み、教育や収入水準の高い層”が遠隔医療を積極的に利用しているという傾向がはっきり示されました。
一方、高齢者や農村部の住民、低所得層は対面医療を利用する傾向が強いことも明らかになりました。
結論
この研究は、遠隔メンタルヘルスがアメリカで確実に定着しつつあることを示しています。しかし、その恩恵を受けられているのは、デジタル機器の扱いに慣れ、通信環境が整い、時間と経済的余裕のある人たちに偏っている現実も浮き彫りとなりました。今後は、「誰もが利用できる遠隔医療とは何か」を考える必要があります。
出典
Olfson M, McClellan C, Zuvekas SH, et al.
Telemental Health, Hybrid, and In-Person Outpatient Mental Health Care in the United States.
JAMA Psychiatry. Published online November 26, 2025.
doi: 10.1001/jamapsychiatry.2025.3575
院長・清澤のコメント
精神科の遠隔医療の研究ではありますが、眼科でも「まぶたの痙攣の相談」「定期フォロー」「薬の副作用説明」など、一部は遠隔診療の利便性が高いと感じます。一方、眼底検査や視野検査、OCTのように“機械を使った診断”が必須の領域では、対面診療が欠かせません。
この研究が示したように、遠隔医療の広がりは便利さを生む反面、アクセスできる層とできない層の差を広げる恐れもあります。日本でも今後、医療の公平性を保ちながら遠隔医療をどう使うか、議論が進むことを期待したいところです



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