末梢神経障害とは何か ― 思っているより身近な神経の病気
末梢神経障害とは、脳や脊髄から出て手足や内臓につながる「末梢神経」が障害される病気の総称です。世界中の成人のおよそ1%が影響を受けているとされ、決して珍しい病気ではありません。原因は200種類以上あるとされ、症状の程度も、足先の軽いしびれから、歩行が困難となり車椅子を必要とする重症例まで幅広いのが特徴です。
末梢神経障害の中で最も多い原因は糖尿病です。世界では約2億6千万人が糖尿病性神経障害の影響を受けているとされ、特に欧米では末梢神経障害の半数以上を占めています。糖尿病性神経障害では、痛み、しびれ、ピリピリとした異常感覚などの感覚症状が目立ちます。また、ふらつきや軽い脱力感、立ち上がった際に血圧が下がる起立性低血圧などの自律神経症状を伴うこともあります。
末梢神経障害の多くは「長さ依存性」と呼ばれる特徴を持ちます。これは、最も長い神経である足の指先から症状が始まり、時間とともに足首、膝、手先へと徐々に広がっていく経過をたどるというものです。左右対称に起こることが多く、運動神経よりも感覚神経が先に障害されやすい点も典型的です。
糖尿病以外の原因としては、シャルコー・マリー・トゥース病などの遺伝性疾患、抗がん剤(シスプラチン、パクリタキセル、ビンクリスチンなど)や一部の不整脈治療薬、HIV治療薬による薬剤性神経障害、アルコール多飲、ビタミンB12欠乏、モノクローナル・ガンモパシーなどが知られています。それでも詳しく検査を行っても原因が特定できないケースが約4人に1人(最大27%)存在します。
診断の初期検査としては、血糖値測定による糖尿病の評価、血清ビタミンB12(必要に応じてメチルマロン酸やホモシステイン測定)、免疫固定法を用いた血清タンパク電気泳動による異常タンパクの確認が推奨されています。
治療の中心は、原因となる病気への対応と、つらい「神経障害性疼痛」のコントロールです。第一選択薬としては、ガバペンチンやプレガバリンといった薬剤が用いられます。これらは神経の過剰な興奮を抑える作用があります。加えて、デュロキセチンやベンラファキシンなどの抗うつ薬、アミトリプチリンやノルトリプチリンといった三環系抗うつ薬も疼痛緩和に使われます。
ただし、治療を行っても痛みが完全に消えるとは限りません。たとえば、痛みを伴う糖尿病性末梢神経障害の患者にガバペンチンを1日1200mg投与した場合でも、痛みが半分以上軽減したのは約38%にとどまっています。複数の薬を組み合わせることで効果が高まる場合もありますが、限界があるのが現実です。
末梢神経障害の予後は原因によって異なりますが、一度傷んだ神経が完全に元に戻ることはまれです。そのため、早期発見と原因への対応、そして症状と上手に付き合う治療が重要となります。
出典
Mauermann ML, Staff NP. Peripheral Neuropathy. Review. JAMA Network. Online published November 17, 2025.
清澤のコメント
末梢神経障害は「しびれ」だけの病気と思われがちですが、背景には糖尿病や全身疾患が隠れていることも少なくありません。眼科診療でも、糖尿病や全身状態を意識した視点を持つことの大切さを改めて感じさせるテーマです。先日まとめた同著者による解説ポドキャストです。



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