全身病と眼

[No.3641] 熱中症の眼と視覚のサインは?その対策は?

今週は暑い日が始まるとの予想が聞かれます。熱中症で見られることのある眼と視覚の症状について例を挙げ、その発現する理由や機序を説明して、更に対応と後遺症が残る可能性を述べてみます。出典論文もつけておきましょう。
【熱中症と眼・視覚の異常】――夏場に注意したい、目に現れるサイン
今年も暑さが厳しい季節がやってきました。熱中症といえば「頭痛」や「吐き気」「けいれん」といった全身症状が知られていますが、実は目や視覚にも異常が現れることがあるのをご存じでしょうか?この記事では、熱中症で見られる「目と視覚の症状」について、原因やメカニズム、適切な対応方法、そして後遺症の有無までを分かりやすくご説明します。

■ 熱中症で現れる眼・視覚の症状とは?
熱中症により、以下のような眼・視覚の異常が報告されています。

かすみ目(霧視)
視界のちらつきや光がまぶしい(羞明)
一時的な視野の欠け(視野欠損)
物が二重に見える(複視)
眼球の動きがにぶくなる(眼筋麻痺)
一時的な失明(一過性皮質盲)
これらは「熱中症による神経系への影響」や「体液・電解質のバランスの崩れ」によって起こると考えられています。

■ なぜ、熱中症で視覚に異常が起こるのか?
熱中症が進行すると、次のような生理学的変化が全身に起き、目にも影響します。

1. 脱水と電解質異常による眼球機能の変化
脱水が進むと、眼球を満たす「房水」や「硝子体」の水分バランスが崩れ、角膜や水晶体が一時的にむくみ、視界がかすむことがあります。(末尾の注記参照;眼球は熱に強い。)

2. 高体温による中枢神経の機能障害
熱中症は中枢神経障害を引き起こすことがあり、視覚をつかさどる後頭葉皮質や視神経経路(視交叉~視放線)が影響を受けると、一過性の視野異常や失明が起こることがあります(「皮質盲」)。
3. 脳浮腫や脳血流障害による視野障害・複視
脳の浮腫や出血、血流障害により外眼筋を支配する脳神経(動眼・滑車・外転神経)が障害されると、眼球の動きが乱れ、複視や眼位異常(斜視)が起こることがあります。
■ 実際に報告されている症例
一例として、重症熱中症による一過性皮質盲の報告があります。これは、視覚をつかさどる後頭葉が一時的に障害されたことで、目自体に異常がないにもかかわらず突然見えなくなるというものです。数時間から数日で回復することが多いですが、高齢者や既往のある方で重症の場合には完全には戻らないケースもあります。
また、熱中症による複視が報告された例では、MRIで中脳の軽度浮腫が確認され、神経支配の異常と診断されました。これは、熱中症が神経眼科的障害を引き起こすことがあることを示しています。
■ 対応と治療:視覚異常が出たらどうすべき?
熱中症によって目に異常を感じた場合、まずすぐに涼しい場所に移動して水分補給を行い、可能なら体温を下げる冷却処置を施すことが重要です。
ただし、視野が欠けたり、複視が続く、視力が戻らないなどの異常が見られる場合は、脳の神経症状の可能性があるため、早急に医療機関を受診すべきです。
眼科だけでなく、神経内科や脳神経外科での評価が必要になる場合もあります。CTやMRI検査が必要となることもあります。

■ 後遺症は残るのか?
多くの場合、熱中症に伴う視覚症状でも眼球に原因がある場合には一過性で、水分補給や体温の正常化により短時間で回復することが多いと考えられます。
しかし、次のように、脳の病変が起きる状況では後遺症が残る可能性があります。
高齢者で回復力が低い場合
重症の脳障害(脳出血や梗塞)など不可逆的変化が合併した場合
基礎疾患(糖尿病、高血圧、緑内障など)がある場合にも視野変化に繋がる脳梗塞などは起きやすいです。
後遺症としては、視野が狭いままになる、羞明が慢性化する、複視が長く残る、といったことが報告されています。

■ まとめ:視覚異常は「熱中症のサイン」の可能性も
熱中症は命に関わることもある重大な状態ですが、目に現れるサインを見逃さないことが予防や早期対応につながります。
「急にかすむ」「二重に見える」「見えにくい」などの症状は要注意。
涼しい環境で水分と電解質を補給。
回復しない・悪化する場合はすぐに受診を!
夏の暑さのなかで、目が送る小さなSOSに気づいていただければ幸いです。

■ 参考文献・原典
Mori K. et al. “Transient cortical blindness associated with severe heat stroke.” Neurology. 2002;59(5):846-847.

Cheshire WP. “Thermoregulatory disorders and illness related to heat and cold stress.” Auton Neurosci. 2016;196:91-104.

Bouchama A, Knochel JP. “Heat Stroke.” N Engl J Med. 2002;346(25):1978–1988.

鈴木英明「熱中症における脳障害とその対処」『日本救急医学会雑誌』 2008年 19巻4号 p.161-167.

追記:眼球は比較的熱中症には強い。

網膜は高温に弱い?──目の中の神経細胞と熱の話

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