全身病と眼

[No.4205] 眼科とアレルギー診療のこれから ―「Total Allergist(総合アレルギー専門医)」に眼科医は必要か?―

眼科とアレルギー診療のこれから

―「Total Allergist(総合アレルギー専門医)」に眼科医は必要か?―

近年の疫学調査では、日本人の 約45% が何らかのアレルギー性結膜疾患にかかっていると報告されています。

中でも最も多いのが スギ・ヒノキ・シラカンバなどによる季節性アレルギー性結膜炎で、国民の 約35% を占めます。さらに、ダニ・ハウスダスト・カビによる通年性アレルギー性結膜炎が約7%、重症型である春季カタルやアトピー性角結膜炎が合わせて4〜5%程度です。

視力矯正に次いで頻度が高い疾患であり、まさに「国民病」と言えるほど広くみられる病気です。

特に花粉症の季節には多くの人が “目の痒み・充血・涙目” に悩まされ、その影響で仕事や学業に集中できず、日常生活の質(QOL)は大きく低下します。

加えて、医療経済的にも負担は大きく、2023年度の眼科領域の医薬品売り上げ約4,000億円のうち、抗アレルギー点眼薬が 約850億円 を占めています。これはVEGF治療薬(約1,300億円)、緑内障点眼薬(約900億円)に次ぐ規模で、アレルギー性結膜疾患が社会にも医療にも重大な影響を与えていることが分かります。


■ 国が支援すべき重要疾患なのに、眼科医の関心は薄い?

2014年に施行された「アレルギー疾患対策基本法」では、結膜アレルギーは喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症と並ぶ重要疾患として国の対策対象に明記されています。

しかし実際には、

「重症化しない病気」

「抗アレルギー点眼薬で簡単に良くなる」

といった誤解もあり、眼科医の関心は決して高くないのが現状です。

実際、花粉飛散のピーク時には抗アレルギー点眼薬の処方は

眼科:他科=2.5:7.5

となっており、多くの患者さんが他科で治療されている実情があります。


■ そこで誕生した「日本眼科アレルギー学会」

こうした状況の改善のため、2017年に 日本眼科アレルギー学会 が設立されました。

この学会は、日本眼科学会だけでなく日本アレルギー学会の関連学会でもあり、内科・小児科・耳鼻科・皮膚科のアレルギー専門医志向者も参加して学び、単位を取得できます。

アレルギー疾患の大きな特徴は

複数の臓器・診療科にまたがって発症すること

です。ひとりの患者が、成長の中で「アトピー性皮膚炎 → 食物アレルギー → 喘息 → アレルギー性鼻炎・結膜炎」と続けて発症することも珍しくありません。

このため日本アレルギー学会は「Total Allergist(総合アレルギー専門医)」という概念を掲げ、

“診療科をまたいで患者を総合的に診られる医師”

の育成を目指しています。


■ しかし「眼科医はアレルギー専門医に不適当」?

ところが、日本専門医機構の見解は大きく異なります。

機構はアレルギー専門医を

「内科・小児科の医師のみ」

とし、

耳鼻科・皮膚科・眼科の医師は不適当

という立場を取っています。

これは眼科にとって大きな逆風です。

しかし、日本眼科アレルギー学会はこの流れに強く異議を唱え、

眼科医も国の認定する“総合アレルギー専門医”になれる道を残すべきだ

と主張しています。2025年の総合アレルギー講習会では、眼科医が初めて会長を務め、約3,000人が参加しました。学際的なアレルギー医療の中で、眼科の重要性が明確に示された出来事と言えます。


■ 出典

海老原伸行:Total Allergist と眼科医.日本眼科学会雑誌 111巻13号,2025年.


■ 清澤院長のひとことコメント

順天堂浦安病院眼科の海老原先生の論説です。結膜アレルギーは患者数が非常に多く、生活への影響も大きいにもかかわらず、眼科として十分な関心が払われてこなかった領域とも言えます。花粉飛散のピーク時には抗アレルギー点眼薬の処方は眼科:他科=2.5:7.5という数値にはショックを感じます。眼科医がアレルギー診療に積極的に関わり、他科とも連携して患者さんを総合的に支えることが求められています。総合アレルギー専門医の議論は、眼科の将来にとっても重要なテーマだと感じます。

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