病的近視の眼底病変について
― 東京科学大学 大野京子先生のご講演を聴いて ―
1月24日、東邦大学大橋病院を中心に活動している「大橋網膜緑内障研究会」に参加し、その中で東京科学大学眼科学分野教授の大野京子先生による「病的近視の眼底病変」についてのご講演を拝聴しました。今回は、そのお話の中で私が理解できた内容と、それを踏まえた個人的な感想を、患者さんや一般の方にも分かるようにまとめてみたいと思います。
まず近視についてですが、近年その数は世界的に増え続けており、将来予測では2050年には世界人口の約半分が近視になるとされています。そのうち約10%は「強度近視」と呼ばれる、度数の強い近視になると見込まれています。ただし、強度近視=すぐに視力が悪くなる(病的近視)というわけではありません。実際には、強度近視の方の約9割は、ある程度良好な視力を保つことができ、問題となる視力低下が起こるのは約1割に限られる、という点はとても重要です。
問題となるのが「病的近視」です。これは単に近視の度数が強いだけでなく、眼底(目の奥の網膜)に構造的な変化や障害が起きている状態を指します。強度近視の代表的な所見として「瀰漫性萎縮(びまんせいいしゅく)」があり、網膜全体が黄色っぽく見えるほど薄くなっている場合があります。ただ、そのような眼でも黄斑(物を見る中心部分)が保たれていれば、眼鏡などで矯正して0.7程度の視力が出ることも少なくないと話されました。
一方で注意が必要なのが「近視性脈絡膜新生血管(近視性MNV)」です。これは強度近視の方の約1割に見られ、さらにその3分の1では両眼に生じるとされています。通常の眼底写真では見つけにくいことも多く、造影検査で異常な蛍光が確認されて初めて診断されることがあります。ここで重要のは、「ラッカークラック」と呼ばれる亀裂から生じる、一時的で比較的良性の黄斑出血ときちんと区別することです。後者の場合、眼球に針を刺すような治療(注射治療)は適しておらず、正確な診断が非常に重要になります。
さらに、活動性のある病的近視では「近視性黄斑分離症」と呼ばれる状態が約10%に見られます。これは網膜の層が上下に引き伸ばされて裂けるように分離してしまう病態で、進行すると外層に穴が開くこともあります。東京科学大学では、必要に応じて硝子体を部分的に剥離するという手術が行われているとのことで、専門施設ならではの高度な対応が印象的でした。後部ぶどう腫に対する後局部のバックリングには明確な反対を述べておられました。
そして、今回の講演で最も強調されていたのが「視神経障害」でした。病的近視では、網膜だけでなく視神経の周囲構造が変形し、視野障害や視神経萎縮を生じることがあります。これは病的近視を考えるうえで、極めて重要なポイントだと感じました。
最後に私自身の感想です。
第一に、東京科学大学では強度近視の視野評価にゴールドマン視野検査を有効に活用している点に深く感銘を受けました。現在、クリニックではこのゴールドマン視野検査を行える施設は減っており、私自身も持っていませんので反省させられました。
第二に、強度近視で見られる視神経萎縮について、視神経周囲の変形や圧迫、牽引によって神経線維が障害されて、結果として神経節細胞が脱落するというメカニズムで理解すべきなのか、改めて考えさせられました。
そして第三に、私は神経眼科を標榜していながら、これまで強度近視における視神経病変に十分な注意を払えていなかったことに、正直なところ忸怩たる思いを抱きました。今回の講演は、日常診療を見直す大きなきっかけになったと感じています。



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