中等度近視と高度近視の境界はどこにあるのか?―2大陸大規模研究から
近年、近視は世界的に増加し、とくに東アジアでは公衆衛生上の大きな課題となっています。近視そのものは眼鏡やコンタクトレンズで矯正できますが、本当に問題となるのは、眼球が伸びることによって生じる合併症です。なかでも近視性黄斑変性(MMD:Myopic Macular Degeneration)は、不可逆的な視力低下を引き起こす代表的な疾患です。
今回ご紹介する論文は、「どこからが“リスクの高い高度近視”なのか」を、眼球の長さ(眼軸長)を指標に明らかにしようとした大規模国際研究です。中国、ロシア、インドで実施された5つの住民ベース研究のデータを統合し、合計18,471人、36,123眼を解析対象としました。参加者は眼底写真撮影や眼軸長測定などの標準的検査を受け、MMDは国際的基準に基づいて分類されています。
解析の結果、眼軸長が長くなるほどMMDの有病率は明確に上昇することが確認されました。さらに年齢が高いこと、女性であること、インド系民族であることもリスク因子として示されました。とくに重要なのは、MMDステージ2以上およびステージ3以上の有病率が急増する“転換点”が、眼軸長26.0〜26.5mm付近に位置していた点です。統計解析では、眼軸が長い群でMMDリスクが数倍から約9倍に上昇しており、この領域を境に合併症リスクが非線形的に高まることが示されました。若年層ではやや高い閾値を示す傾向もありましたが、全体としては26mm前後が一つの重要な境界と考えられます。つまり、眼軸長が26mmを超えると、将来的な視力障害リスクが顕著に増す可能性があるということです。
清澤の付記
患者さんにとっては「眼軸長」よりも「近視の度数(ジオプトリー)」の方が身近かもしれません。一般に、眼軸長が1mm延びると約−2.5〜−3.0D近視が進むとされています。成人の平均眼軸長は約23.5〜24.0mmでほぼ正視ですから、26.0mmはそこから約2.0〜2.5mm長い計算になり、およそ−5〜−6D前後に相当します。26.5mmでは−6〜−8D程度が目安となります。したがって臨床的には、概ね−6D前後が高度近視リスクの入り口と理解してよいでしょう。
ただし、この換算はあくまで概算です。屈折度数は角膜のカーブ、水晶体の屈折力、前房深度、さらには加齢変化や白内障などの影響も受けます。角膜が強く湾曲していれば眼軸がそれほど長くなくても近視は強くなりますし、逆に眼軸が26mmを超えていても度数が−6D未満の方もいます。つまり、度数だけでは構造的リスクを正確に評価できないのです。
高度近視で本質的に問題となるのは、眼球が物理的に伸びることによる網膜や脈絡膜の菲薄化、後部ぶどう腫形成などの構造変化です。これらは屈折値ではなく眼軸長そのものに依存します。今回の研究が示した26mmという数値は、「度数の境界」を示すものではなく、「合併症リスクが加速し始める物理的長さ」を示している点に大きな意義があります。小児期の近視進行抑制が重視される背景には、この構造的閾値の存在があります。将来の視力を守るためには、眼鏡度数の推移だけでなく、眼軸長を継続的に管理する視点が不可欠です。
出典
Jonas JB, Jonas RA, Bikbov MM, Wang YX, Nangia V, Panda-Jonas S, et al.
“Cutoff of Axial Length for Moderate and High Myopia Based on the Prevalence of Myopic Macular Degeneration: A Two-Continent Population-Based Study.”
Ophthalmology.



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