小児の近視進行予防における新しい選択肢:ミヨスマート(DIMSレンズ)6年間の臨床研究からわかったこと
私は、小児の近視進行を抑えるために、1日2時間以上の戸外活動、低濃度アトロピン(リジュセアミニ;私費診療)、オルソケラトロジー(私費診療)を三本柱として推奨してきました。近視の進行は、遺伝だけでなく生活習慣によって大きく左右されるため、これらを組み合わせることで進行を大きく遅らせることができます。こうした方法に加えて、近日中に発売予定のミオスマートという特殊眼鏡レンズを治療ラインナップに取り入れる準備を進めています。ミオスマートに使われるレンズは、中心部は通常の近視補正レンズで、周辺部には+3.50Dの小さなレンズを多数配置したDIMSという技術で作られており、網膜周辺に“焦点が手前にくるゾーン”をつくることで眼軸が伸びにくい環境を整える仕組みです。
このレンズの効果を確かめるために、香港理工大学の研究グループは子どもたちを対象に6年間の追跡研究を行い、その結果がScientific Reportsに公開されました。この研究は世界でも最長規模のDIMSレンズ長期フォローで、近視抑制効果の持続性と安全性の両方を確認した点で大変重要です。8〜13歳の近視の子どもたちが対象となり、6年間DIMSを装用した群、途中で通常の単焦点レンズに切り替えた群、逆に単焦点からDIMSへ変更した群の比較が行われました。最も注目されるのは、6年間ずっとDIMSレンズを装用した子どもたちでは、近視度数の変化も眼軸長の伸びも、前半3年と後半3年で進行速度が悪化することなく、安定して抑制され続けた点です。眼軸長の伸びは一般的な近視児に比べて明らかに抑えられ、効果が長期間維持されました。また途中でDIMSをやめて単焦点レンズに戻した子どもでも、いわゆる“リバウンド”は見られず、年齢相応の自然な進行に留まっていました。安全性についても、視力や眼の発育に影響するような問題は報告されず、長期間安心して使えることが確認されています。
このレンズの効果は、装用時間がしっかり守られている子どもほど高く、当院で推奨する1日2時間以上の戸外活動や近業のやりすぎを避ける生活習慣の改善と併用することで、より高い抑制効果が期待できます。また、点眼や夜間装用が必要なアトロピン・オルソケラトロジーに比べ、眼鏡型は子どもが抵抗なく取り入れやすいという利点もあります。治療の選択肢が増えることは、患者さんとご家族にとって大きなメリットです。
なお、製造元の販売業者では、この眼鏡の使用効果を確実にするため、当分の間は処方できる医師と取り扱い眼鏡店を限定し、眼科医による処方を受けずに量販店で直接作成するという道は拡げない方針のようです。この方向性は、小児の近視治療を総合的管理を志向する眼科専門医としても望ましい姿勢であると感じました。お子さんの近視についてご不安があれば、現在の治療と併せて新たな選択肢として検討していただければと思います。
【出典】
Lam CSY et al. Long-term myopia control effect and safety in children wearing DIMS spectacle lenses for 6 years. Scientific Reports. 2023.
追記;
近視進行予防眼鏡「MiYOSMART(ミヨスマート)」の構造と作動原理
HOYA社が発売を予定している近視進行予防眼鏡「MiYOSMART(ミヨスマート)」は、DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments)テクノロジーと呼ばれる独自の光学設計を採用しています。レンズの中央部には通常の単焦点レンズが配置され、周囲には数百個の小さな微小レンズセグメントが蜂の巣状に並びます。この微小セグメントが「近視抑制効果」の核心です。
近視は、網膜より後ろに焦点が結ぶことで眼軸が伸びやすくなる「軸長進展」を伴います。ミオスマートは、通常の鮮明な像を中央で結ばせながら、周辺部に“わずかな前方ボケ(myopic defocus)”を意図的に作り出すよう設計されています。この前方ボケが網膜に「これ以上の眼軸伸長は不要」と脳に信号を送り、結果として近視進行を抑制すると考えられています。
国際的な研究では、DIMSレンズ装用児で近視進行が平均約60%抑制されるなど、高いエビデンスが得られています。装用感は通常の眼鏡とほぼ変わらず、日常生活やスポーツにも適しています。副作用も少なく、低濃度アトロピンやオルソケラトロジーと並び、小児近視治療の重要な選択肢になりつつあります。





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