小児の眼科疾患

[No.3770] 近視抑制治療の現状:平岡孝浩氏の日本の眼科記事から採録

子どもの近視進行を防ぐために──近視抑制治療の最新情報

近年、子どもの近視が急速に増加しています。何回かその対策をお話ししていますが、今日は日本の眼科に近視抑制治療の最新情報が掲載されましたので、要点を採録してみます。特にICT教育やスマートフォンの普及により、近業作業が増え、屋外活動が減少したことが一因と考えられています。強度近視は将来的に網膜剥離や緑内障などの重篤な眼疾患に繋がる恐れがあるため、予防・抑制の重要性が世界的に認識されています。本日届いた日本の眼科の眼科医の手引きによりますと、筑波大学の平岡孝浩教授は、近視抑制の方法は複数あり、それぞれに特徴があります。ここでは、現在有効性が確認されている代表的な方法をご紹介します。

① 屋外活動

1日2時間の屋外活動が近視の予防に効果的とされています。自然光が目に入ることで、眼軸の伸びを抑えるドーパミンの分泌が促されるためです。台湾では国を挙げて「Tian-Tian 120」政策を導入し、近視の発症率を減少させた実績があります。

② 特殊デザイン眼鏡

  • DIMSレンズ(多焦点小セグメント型)

    約1cmの中心ゾーンを囲むように+3.5Dの小さなセグメントが配置され、周辺に近視性デフォーカスを作ることで、眼軸の伸びを抑制します。2年間の臨床試験で近視進行を52%、眼軸長の伸長を62%抑えたと報告されています。

  • HALレンズ(非球面小レンズレット型)

    DIMSと似た仕組みで、同様の抑制効果が確認されています。(清澤注:本年末にこのレンズが国内で市販されるという話を聞きました。)

  • DOTレンズ

    レンズの周辺部に光を拡散する微細構造を配し、コントラストを下げて眼軸の伸長を抑えるという新理論に基づいた設計。1年で74%の近視進行抑制効果が認められました。

③ 低濃度アトロピン点眼

0.01〜0.05%濃度のアトロピン点眼薬は、眼軸長の進行を抑制します。0.05%はより強力ですが、羞明や調節障害などの副作用も増えるため、調光レンズや累進レンズを併用することもあります。0.01%はリバウンドが少なく安全性が高いとされます。2024年には、日本で初の近視抑制治療薬(0.025%製剤)が承認されました。(わたくしはこれを私費診療で処方しています)

④ オルソケラトロジー(OK)

夜間就寝時に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで角膜形状を変化させ、近視の進行を抑えます。2年間で43%の眼軸長伸長抑制効果が報告されています。0.01%アトロピンとの併用でより効果が高まるとされていますが、感染症のリスクに注意が必要です。(わたくしはメニコン社のこのレンズを処方しています。)

⑤ 多焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)

代表例はMiSight。遠視性デフォーカスを抑え、3年間で近視進行を59%、眼軸長を52%抑制したとの報告があります。FDAやCEで承認され、日本でも治験を終えて承認待ちです。EDOF型やリングフォーカス型など新タイプも開発が進んでいます。

⑥ レッドライト治療

650nmの赤色光を1日2回、3分ずつ照射する新しい治療法です。眼軸長の伸びを強力に抑える効果が報告されていますが、安全性の面では今後の研究が必要です。(この方法を私はまだ始めていません。)


おわりに

日本でも近視抑制治療の選択肢が増えつつあり、患者に合った治療を選ぶことが重要です。どの治療法も「完全に近視を止める」わけではなく、「進行を遅らせる」ことが目的です。保護者の理解と協力のもと、子どもの視力を守る継続的な取り組みが必要です。眼科医として、科学的根拠に基づいた情報を提供し、適切な時期に最適な方法を提案していくことが求められています。


参考文献:

平岡孝浩.近視抑制治療の現状.日本の眼科の眼科医の手引<1084>.2024年.

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