トランプ関税ありきで対応した日本と、対等に対抗しようとした中国の基本的姿勢の違いが目立っています。
米中関税戦争、90日間延長の舞台裏と影響
米国と中国は、互いの輸入品に課している追加関税を90日間延長することで合意しました。これにより、米国は中国製品への関税を最大30%(基本税率10%+フェンタニル関連20%)に、中国は米国製品への関税を10%に据え置きます。当初予定されていた145%や125%といった極端な引き上げは回避されました。
トランプ大統領は「中国との協議を継続し、不公平な貿易を是正するための重要な措置を中国に求める」と説明。一方、中国は「世界経済の安定につながる」と歓迎しています。
しかし背景には、米国が関税強化で得られるはずの譲歩を引き出せなかった現実があります。中国はレアアース(電気自動車や戦闘機にも不可欠な資源)の輸出制限をちらつかせ、米国製造業に打撃を与える構えを見せました。さらに、米国は一部AIチップ(NVIDIAやAMD製)の対中輸出規制を事実上緩和し、販売額の15%を米政府が徴収する方式を採用しました。これは専門家から「米国のAI優位を脅かす戦略的失敗」とも指摘されています。
経済的には、関税収入は数百億ドル増えたものの、所得税に代わる規模ではなく、消費者物価や企業コスト上昇による負担増で効果は相殺されやすい状況です。6月の貿易赤字は縮小したものの、これは関税発動前の駆け込み輸入の反動であり、構造的改善ではありません。製造業の国内回帰もほぼ進まず、企業は関税方針の迷走を懸念して投資を控えています。
今回の延長は、米国経済の混乱やインフレ加速、スタグフレーション(景気後退と物価上昇の同時進行)を避ける狙いがあったとみられます。高関税維持は、中国依存度の高い製品価格を直接押し上げ、景気悪化や雇用減少につながる恐れがありました。特に大統領選を控えたトランプ政権にとって、株価や雇用悪化は致命的です。
総じて、当初の「強硬関税で中国から大幅な譲歩を引き出す」という戦略は、米国経済への副作用の大きさから軌道修正を余儀なくされ、中国に有利な形での延長となったといえます。延長は「撤退」ではなく「凍結」という形で交渉余地を残しましたが、外交・経済両面での主導権は低下。短期的な経済安定を優先した結果、長期的な交渉カードを失うという大きな戦略的ミスとの評価も避けられません。
院長コメント
本日までにニューヨーク株価や日経平均株価は史上最高値を更新し、市場は「トランプ関税の悪影響から経済が立ち直った」と受け止めているようです。
しかし、株価は短期的な需給や金融政策の影響を強く受けるため、必ずしも実体経済の健全性を示すものではありません。関税戦争によって混乱したサプライチェーンや企業投資の停滞は、まだ完全に解消されたわけではなく、企業収益や雇用環境への影響は今後も慎重に見極める必要があります。
医療の現場でも、経済の不安定さは患者さんの受診行動や健康意識に波及します。株価の高騰に安心するよりも、中長期的な経済の安定と生活基盤の回復が何より重要だと感じます。
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