社会・経済

[No.3851] 少子化は本当に「人類の危機」か?――Nature News Feature 記事と日本の現状から考える

少子化は本当に「人類の危機」か?

――Nature News Feature 記事と日本の現状から考える

2025年8月19日付の Nature ニュース特集「People are having fewer babies: Is it really the end of the world?(少子化は本当に世界の終わりなのか?)」は、出生率低下の急速な進行とその影響について多角的に論じています【Lynne Peeples, Nature, 2025年8月19日】。ここでは、その要点を紹介しつつ、日本の現状を踏まえて私自身の感想をまとめます。(元記事を星信悦君から聞きました。)


■ 世界的に進む「ベビーバスト」

1970年のメキシコでは、女性1人あたり平均7人の子どもを産んでいましたが、2014年には2人、2023年には1.6人へと急減しました。人口維持に必要とされる水準(出生率2.1)を大きく下回っています。こうした動きは世界の大多数の国で共通しており、ワシントン大学の保健指標・評価研究所(IHME)は、2050年までに世界の4分の3以上の国が人口維持困難に陥ると予測しています。


■ なぜ問題なのか?

出生率低下が問題視されるのは、単に子どもが減るからではありません。

  • 急速な高齢化:65歳以上人口の比率は25年で倍増し、社会保障への負担が増大。

  • 経済停滞の懸念:労働人口減少による生産性の低下や、イノベーションの停滞。

  • 国際的影響:軍事力や政治的影響力の縮小、環境投資の停滞。

各国は人口減少の「連鎖的影響」にどう備えるかを迫られています。


■ 出生率低下の要因

複数の社会的・経済的要因が重なり合って低下を加速しています。

  • 避妊や教育の普及:イランでは家族計画政策により20年で出生率が7から2未満へ激減。

  • 女性の自立と価値観の変化:韓国では「デート・結婚・出産拒否」を掲げる「4つのノー運動」が広がり、結婚や出産を選ばない若者が増加。

  • 経済的圧力:住居費や教育費の高騰、雇用の不安定化。国連調査では39%が「経済的制約」を理由に挙げています。

  • 社会不安:環境破壊や政治不安が「子どもを持ちにくい心理」に影響。

これらは「人々が望む子どもの数を実現できない社会制度の問題」だと専門家は指摘しています。


■ 将来予測と適応の視点

国連や各研究機関の予測では、世界人口は今後30~60年でピークに達し、その後減少に転じる可能性が高いとされます。これは14世紀のペスト以来初の大規模人口減少です。

ただし、サハラ以南のアフリカは例外で、今世紀末には世界の半数以上の子どもが同地域で生まれると予測されています。

研究者たちは「出生率を元に戻すこと」よりも「減少に適応すること」に視点を移すべきだと提言しています。社会制度を柔軟に設計し直せば、少子化は必ずしも破局を意味しない、という見解です。


■ 日本の現状と眼科医療の視点

この記事を読みながら、私はやはり日本の現状を思い浮かべました。日本の合計特殊出生率は2024年時点で1.2台と極めて低く、地方では小中学校の閉校が相次いでいます。診療所周辺でも、かつて子どもで賑わった地域が高齢者ばかりになっていくのを実感します。

眼科医療の現場においても、この人口構造の変化は明確です。本来であれば近視進行を抑制する治療や、視力発達を支えるべき小児患者は減少の一途をたどっています。その一方で、白内障、緑内障、加齢黄斑変性といった高齢者に多い疾患の割合は年々増加しており、診療の重心は着実にシニア世代へと移っています。


■ まとめと私の感想

Nature の記事は、少子化を「世界の終わり」と悲観するのではなく、「適応可能な社会課題」として捉える視点を提示していました。日本でも、子どもを産み育てやすい環境整備は不可欠ですが、同時に少子化を前提にした社会設計が急務です。

眼科の現場に立つ者として、私はこの変化を日々実感します。未来の子どもたちが少なくなる分、一人ひとりの近視予防や発達支援の重要性はむしろ増すでしょう。そして高齢者の患者さんに対しては、白内障や緑内障治療を通じて「より長く良い視力を保つ」ことが社会的な使命となります。

人口減少は避けられない流れかもしれません。しかし、医療者として目の前の世代に適切なケアを提供しつつ、社会全体で次の時代にふさわしい仕組みを作ることこそ、私たちに与えられた課題であり希望でもあると感じます。


📖 出典:

Lynne Peeples, People are having fewer babies: Is it really the end of the world?, Nature News Feature, 19 Aug 2025.

https://doi.org/10.1038/d41586-025-02605-6

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