日銀利上げは「20年遅れの健康診断結果」――金利転換期にどう生き方を変えるか(チャーリー・マンガ―)
この講話では、今回の日銀の利上げは「ちょっとした微調整」ではなく、20年も先送りされてきた健康診断の結果がようやく封筒から取り出された段階だと位置づけています。物価はすでに2〜3%のインフレが続き、賃金も人手不足を背景に上がり始めました。それにもかかわらず名目金利は0.5%程度にとどまり、実質金利はマイナス2.5%前後。預金者は預金通帳の数字こそ減らないものの、毎年じわじわと購買力を失い、逆に借り手やゾンビ企業だけが得をする、価値観をゆがめる世界が続いてきたと指摘します。もし世界が今後利下げへ向かう中で日本だけが超低金利に居座れば、円安・物価高は長期化し、その後に日本だけ利上げへ転じることは難しくなります。だからこそ今、せめて1〜1.25%程度の「普通の金利」へ戻しておく必要があるのだと説きます。
一方、個人にとって大事なのは「日銀が何ベーシスポイント動くか」ではなく「自分は金利に殺される側か、それとも家賃や配当を受け取る側か」という立ち位置です。普通預金や低金利の国債だけを頼りにする生き方は、数字が減らない安心感と引き換えに「静かなインフレ税」を払い続ける行為だといいます。まず2〜3年分の生活費相当の現金や短期の安全資産を「生活防衛費」として確保したうえで、それ以上の資金は、長期にわたって現金収入を生む資産に少しずつ移していくべきだとします。具体的には、長年にわたり配当を出し続けている優良企業の株や、高配当株・広範囲インデックスなどです。日々の株価ではなく「10〜20年利益を稼ぎ、キャッシュを株主に届け続けられるか」を見るべきだと強調します。
反対に、変動金利の住宅ローンを限界まで組んだ世帯や、ほぼゼロ金利を前提に借金で膨らんできた企業・不動産投資家は、利上げの直撃を受けます。金利が1〜1.5%上がったとき、家計や企業が持ちこたえられるか冷静に計算し、厳しければ繰上げ返済や住まいの見直し、レバレッジの縮小を急ぐべきだと警告します。日本政府にとっても利上げは巨額の国債費を押し上げ、最終的には増税や給付削減という形で国民負担として戻ってきます。国際的にも、日本の金利上昇は日本国債の利回り上昇を通じて世界の債券市場の「土台」を押し上げ、日本勢の資金が海外から引き揚げられることで、米欧や新興国の金利・リスク資産にも波及します。さらに、円キャリートレードの巻き戻しによって、世界同時株安・商品安のような「他人のレバレッジ解消」に巻き込まれるリスクにも触れています。
ではどう行動すべきか。著者は年代別に指針を示します。働き盛り世代は「①2〜3年分の生活防衛資金、②配当など安定キャッシュフロー資産、③長期成長資産」という三重構造をつくり、金利の行方を当てようとするより「その水準に自分の家計が耐えられるか」を試算せよといいます。退職世代は、普通預金と長期国債に偏った資産配分を見直し、全体の1〜2割からでも配当株やインデックスを組み入れ、「利息だけの資産」から「成長とキャッシュフローを生む資産」へのシフトを始めるべきだとします。若い世代にとっては、金利正常化に伴う資産価格の調整はむしろ「長期で見れば買い場」であり、レバレッジや難解な金融商品に近づかず、給料日ごとに低コストインデックスを淡々と積み立てる習慣こそが最大の武器になると励まします。
最後に著者は、自らの投資原則として「①まず利上げで必ず死ぬ場所(ゼロ金利でしか生きられない企業や高レバレッジ投資)を地図上で赤く塗り、そこに立たないこと、②安い資金に依存した投機家ではなく、安定したキャッシュフローと価格決定力を持つ企業や、自分の生産性向上に賭ける側に立つこと、③低利回りの商品に資金を寝かせる“機会費用”を忘れず、時間と複利を味方につけること」を挙げます。名目の数字だけを守り、実際の購買力を守れない「疑似資産」にしがみつくのは、金利が普通に戻る日本で最も危険な選択だ、と結論づけています。



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