「特発性黄斑上膜術後の視覚関連QOLに関わる因子の検討」の解説:(日本眼科学会雑誌 129巻、第6号 )
「見え方の質」を高めるためのタイミングとは?──黄斑上膜の手術で得られる生活の質の改善について
黄斑上膜(おうはんじょうまく)は、目の奥にある網膜の「黄斑」という部分に薄い膜が張ってしまう状態で、物がゆがんで見えたり、視力が落ちたりします。この病気は主に加齢に伴って自然に起こることが多く、「特発性」と呼ばれるタイプが多くを占めます。東京医科大学の研究チームは、黄斑上膜に対して手術を受けた患者さんの「生活の質(Quality of Life:QOL)」が、術前のどんな検査結果と関係しているのかを詳しく調べました。 それによって、「いつ手術すればよいのか」の判断の参考にしたいというのが目的です。
どんな調査をしたのか?
2020年から2022年にかけて、東京医科大学病院で硝子体手術(目の中のゼリー状の硝子体を取り除く手術)を受けた、黄斑上膜の患者さん40名が対象です。
調査では、以下のことを行いました:
- 術前と術後3か月にアンケートを実施
→「NEI VFQ-25」という視覚に関するQOL(生活の質)調査票を使って、見え方が日常生活にどれだけ影響しているかを数値化しました(点数が高いほど良好)。 - 同時に目のいくつかの検査も実施
→ 主に以下のような検査を行い、それらとQOLとの関係を調べました。- 網膜の厚さ(OCT)
- 変視量(M-CHARTS™):ものがどれだけゆがんで見えるか
- 立体視(Titmus Stereo Test)
- 不等像視(new aniseikonia test):左右で物の大きさが違って見えるか
どんな結果だったか?
- 手術後、QOLは明らかに改善!
手術前のQOLスコアは75.2点でしたが、手術後は82.3点まで上昇しました(統計的に有意な改善)。 - しかし、すべての人が満足する結果とは限らない。
QOLスコアが高くない人には、ある共通点があった。
QOLと関係が深かったのは「変視量」
手術前後の様々な検査のうち、「変視量(もののゆがみの程度)」が大きいほど、手術後のQOLが低くなる傾向がありました。特に、
- 術前のゆがみが強いほど、術後もQOLがあまり改善しない
- 他の検査項目(視力、立体視、不等像視など)との関連はあまり見られなかった
いつ手術するべきかの目安
解析の結果、手術前にM-CHARTS™で測定される変視量が「0.85°」を超えている場合、手術後もQOLが80点未満にとどまりやすいことが分かりました。
- この「0.85°」という値が手術時期の目安になるかもしれません。
- つまり、「ゆがみ」がひどくなる前、0.85°を超える前に手術を考えるのが望ましいということです。
おわりに
この研究から分かることは、「視力」だけでなく、「見え方の質」も手術の成果に大きく関わるということです。
特に、ものがゆがんで見える(変視)という症状が強くなる前に手術をすることで、手術後の日常生活の満足度がより高くなる可能性があることが分かりました。
患者さん自身が「最近、テレビの字幕が波打って見える」「人の顔がゆがんで見える」と感じたときは、早めに眼科を受診し、M-CHARTS™での検査を受けておくことが、将来の見え方の満足度を高めるための第一歩になるでしょう
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