糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.3635] 「特発性黄斑上膜術後の視覚関連QOLに関わる因子の検討」:論文紹介

特発性黄斑上膜術後の視覚関連QOLに関わる因子の検討」の解説:(日本眼科学会雑誌 129巻、第6号 )

「見え方の質」を高めるためのタイミングとは?──黄斑上膜の手術で得られる生活の質の改善について

黄斑上膜(おうはんじょうまく)は、目の奥にある網膜の「黄斑」という部分に薄い膜が張ってしまう状態で、物がゆがんで見えたり、視力が落ちたりします。この病気は主に加齢に伴って自然に起こることが多く、「特発性」と呼ばれるタイプが多くを占めます。東京医科大学の研究チームは、黄斑上膜に対して手術を受けた患者さんの「生活の質(Quality of LifeQOL)」が、術前のどんな検査結果と関係しているのかを詳しく調べました。 それによって、「いつ手術すればよいのか」の判断の参考にしたいというのが目的です。

どんな調査をしたのか?

2020年から2022年にかけて、東京医科大学病院で硝子体手術(目の中のゼリー状の硝子体を取り除く手術)を受けた、黄斑上膜の患者さん40が対象です。

調査では、以下のことを行いました:

  • 術前と術後3か月にアンケートを実施
     NEI VFQ-25」という視覚に関するQOL(生活の質)調査票を使って、見え方が日常生活にどれだけ影響しているかを数値化しました(点数が高いほど良好)。
  • 同時に目のいくつかの検査も実施
     主に以下のような検査を行い、それらとQOLとの関係を調べました。

    • 網膜の厚さ(OCT
    • 変視量(M-CHARTS™:ものがどれだけゆがんで見えるか
    • 立体視(Titmus Stereo Test
    • 不等像視(new aniseikonia test:左右で物の大きさが違って見えるか

どんな結果だったか?

  • 手術後、QOLは明らかに改善!
     手術前のQOLスコアは75.2でしたが、手術後は82.3まで上昇しました(統計的に有意な改善)。
  • しかし、すべての人が満足する結果とは限らない。
     QOLスコアが高くない人には、ある共通点があった。

QOLと関係が深かったのは「変視量」

手術前後の様々な検査のうち、「変視量(もののゆがみの程度)」が大きいほど、手術後のQOLが低くなる傾向がありました。特に、

  • 術前のゆがみが強いほど、術後もQOLがあまり改善しない
  • 他の検査項目(視力、立体視、不等像視など)との関連はあまり見られなかった

いつ手術するべきかの目安

解析の結果、手術前にM-CHARTS™で測定される変視量が「0.85°」を超えている場合、手術後もQOL80点未満にとどまりやすいことが分かりました。

  • この「0.85°」という値が手術時期の目安になるかもしれません。
  • つまり、「ゆがみ」がひどくなる前、0.85°を超える前に手術を考えるのが望ましいということです。

おわりに

この研究から分かることは、「視力」だけでなく、「見え方の質」も手術の成果に大きく関わるということです。

特に、ものがゆがんで見える(変視)という症状が強くなる前に手術をすることで、手術後の日常生活の満足度がより高くなる可能性があることが分かりました。

患者さん自身が「最近、テレビの字幕が波打って見える」「人の顔がゆがんで見える」と感じたときは、早めに眼科を受診し、M-CHARTS™での検査を受けておくことが、将来の見え方の満足度を高めるための第一歩になるでしょう

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M-CHARTSを説明してください。(自由が丘清澤眼科にはまだ用意されていません)

■ M-CHARTS(エムチャート)とは?

M-CHARTS(マイクロ・パラセプション・チャート)は、眼科でものがゆがんで見える「変視症」の程度を定量的に評価するための検査道具です。とくに黄斑前膜加齢黄斑変性などの網膜疾患で、患者さんの自覚症状と視機能の変化を可視化するのに役立ちます。


■ 変視症とは?

変視症とは、たとえば以下のような症状を指します:

  • 真っすぐな線が波打って見える

  • 格子状の模様がゆがんで見える

  • 物の形が不自然に変形して見える

このような症状は、網膜の中心(黄斑部)に異常があるときによく見られます。


■ M-CHARTSの検査方法

M-CHARTSでは、さまざまな間隔の点線(ドット)でできた直線を、患者さんに見てもらい、「どの線がまっすぐに見えるか」を尋ねていきます。

  1. 最初に太くて間隔の広い点線から始め、

  2. 次第に細かく密な点線にしていき、

  3. 変形が感じられなくなる(=ゆがみを感じない)最も細かい点線の間隔を測定します。

この「ゆがみを感じなくなる最小のドット間隔(角度)」がMスコアと呼ばれ、変視の程度を数値化できます。


■ 検査の意義

  • 客観的にゆがみの強さを評価できる

  • 手術や治療の前後で変化を追える

  • 視力だけではわからない視覚の質の変化を把握できる


■ よくある疾患での活用例

疾患名 活用の目的
黄斑前膜 手術前後の変視の改善度を評価
加齢黄斑変性 滲出型の治療効果の判定
中心性漿液性脈絡網膜症 経過観察中の変化把握

■ まとめ

「M-CHARTSという検査では、“ものがゆがんで見える程度”を数字で測ることができます。視力の数字だけではわからない“見えにくさ”を詳しく知ることで、手術や治療がどれくらい効いているのかもよくわかります。」

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