「気のせい」ではなかった飛蚊症の辛さ、ついに数値化へ
今回は、飛蚊症(ひぶんしょう)に悩むすべての患者さんにとって、非常に希望の持てる最新の医学情報をご紹介したいと思います。
見えない苦しみ、「飛蚊症」
「目の前に黒い点や糸くずのようなものが飛んで見える」
これが飛蚊症の症状です。多くの人が経験する一般的な症状ですが、中には単に「気になる」というレベルを超え、深刻な視覚障害や、うつ・不安といった精神的なストレスを感じている方も少なくありません。しかし、これまでの眼科診療には大きな課題がありました。患者さんが「すごく邪魔で辛い」と訴えても、私たちが眼底検査をすると「病気ではないので、生理的なものです。慣れるしかありません」と診断せざるを得ないケースが多々あったのです。ある研究では、重度の症状を訴える患者さんの97%において、医師の診察では「濁りは軽微、または無し」と判定されたというデータもあります。医学的には「異常なし」でも、患者さんにとっては「異常あり」。このギャップが、患者さんを孤独にさせ、不安を増幅させていました。
新しい評価ツール「VFFQ-23」の登場
そんな中、2025年10月にJAMA Ophthalmologyという権威ある医学誌で、画期的な報告がなされました。それは「VFFQ-23」という、飛蚊症専用の新しい問診票(評価ツール)の開発についてです。
これは、患者さん自身の言葉で「どれくらい生活に支障があるか」を測定するものです。実際の飛蚊症患者さんのデータを元に作られた23個の質問項目からなり、科学的な信頼性が高いとされています。
このツールの何がすごいのかというと、「患者さんの主観的な辛さ」が、「客観的な検査データ」と一致することが証明された点です。
この問診票で「辛い」という結果が出た患者さんは、実際に超音波検査での「硝子体の濁り」や、薄い文字などを見分ける「コントラスト感度」の低下が見られたのです。
つまり、これまで「気のせい」や「神経質すぎる」と言われがちだった症状が、実は眼球内の物理的な変化や、視機能の低下に基づいていることが裏付けられたのです。
今後の診療はどう変わる?
このツールが普及すれば、飛蚊症の診療は大きく変わる可能性があります。
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見えにくさの「見える化」
視力検査(1.0や0.8など)では分からない、「霧の中での見えにくさ」や「運転・読書のしづらさ」を数値として捉えることができるようになります。
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治療の判断材料になる
これまでは「我慢するしかない」と言われていた症状でも、「点数がこれくらい高く、生活に支障が出ているレベルなので、治療を検討しましょう」といった具合に、レーザー治療や手術の適応をより客観的に判断できるようになります。
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新しい治療法の開発が進む
「患者さんがどれくらい楽になったか」を正確に測れるようになるため、より効果的な治療薬や治療法の開発が加速すると期待されています。
院長からのメッセージ
もちろん、すべての飛蚊症に手術が必要なわけではありません。リスクとベネフィットのバランスは常に慎重に考える必要があります。また、このツールが一般のクリニックで日常的に使われるようになるには、まだ少し時間がかかるかもしれません。しかし、「我慢するしかない」という選択肢しかなかった時代から、「生活の質を上げるためにどうするか」を一緒に考えられる時代へと、飛蚊症診療は確実に変わりつつあります。もし、飛蚊症で強いストレスを感じている場合は、一人で悩まず、まずは眼科専門医にご相談ください。網膜剥離などの危険な病気が隠れていないかを確認した上で、その辛さに寄り添ったアドバイスができるはずです。
【出典情報】
論文タイトル: Invited Commentary: Patient-Centered Care in Symptomatic Floaters (飛蚊症における患者中心のケア)
著者: Louay Almidani, MD, MSc; Pradeep Ramulu, MD, PhD (ジョンズ・ホプキンス大学医学部 ウィルマー眼研究所)
掲載誌: JAMA Ophthalmology (Published Online: October 2, 2025)
DOI: 10.1001/jamaophthalmol.2025.3477



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