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[No.1981] 論文出版:[第5回] 研究評価とオープンアクセス:大隅典子

清澤のコメント:定年を過ぎた私は、キャリア志望に論文の質や論文数が関係する現役研究者ではありません。しかし、自分が論文を出した雑誌のインパクトファクターや、被引用回数には多少の興味を持っています。話は変わりますが、文部省によって東北大学が日本初の国際卓越研究大学に選ばれたというような場面においては、この記事の内容のh5-indexの様な物も評価対象になったのかもしれません。母校に論文出版に対するその様な鋭い目を持った医学部出身の付属図書館長が居て下さることには心強さを感じました。

オープンサイエンス時代の論文出版

連載 大隅典子

2023.09.04 週刊医学界新聞(通常号):第3531号より

 研究論文の歴史から電子化された現状までを紹介した。本稿では「研究評価との関係」について取り上げる。

 研究者人口が少なかった頃は,発表される論文数も少なく,研究者評価は専ら研究コミュニティの中でなされてきた。研究コミュニティが拡大し,研究分野が細分化され,膨大な論文が出版されるにつれ,評価は難しくなった。

 例えば人事採用や研究費の審査における個人の評価もあれば,研究機関や国ごとの研究レベルを評価することも頻繁に行われる。その評価には,論文の質や量を測ることが必要だ。本稿では研究機関の研究力評価を論じたい

「大学ランキング」で用いられる研究力評価指標1)

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 世界大学ランキング等で用いられる研究力評価の指標(文献1をもとに筆者がアップデート)

Field-Weighted Citation Impact(FWCI):論文の被引用数(citation)をベースとし,研究分野による補正をかけた指標である。研究分野によって研究者人口や引用の慣習等に違いがあるため,論文の被引用数は補正される。

トップ%論文:特定の分野や学術ジャーナル内で最も引用された論文の上位パーセンタイルを指す用語。例えば「トップ10%論文数」は,被引用数が上位10%に入る論文群の数を指し、「トップ10%論文割合」もだせる。一定の質が担保された論文の量やその割合を示す

h-index:個人の論文数とその被引用数をもとに計算される指標である。ある研究者のh-index50である場合,少なくとも50回引用された論文を50本発表していることを意味する。

Field-Weighted Citation Impact(FWCI):論文の被引用数(citation)をベースとし,補正をかけた指標。研究分野によって研究者人口や引用の慣習等に違いがあるため,論文の被引用数がどの程度あるのかは補正される。

トップ%論文:特定の分野や学術ジャーナル内で最も引用された論文の上位パーセンタイルを指す用語である。例えば「トップ10%論文数」は,被引用数が上位10%に入る論文群の数を指し,トップ10%論文数を全論文数で割った値が「トップ10%論文割合」。一定の質が担保された論文の量やその割合を示す。

h-index:物理学者のホルヘ・E・ヒルシュによって2005年に提案され,個人の論文数とその被引用数をもとに計算される指標である。例えば,ある研究者のh-indexが50である場合,少なくとも50回引用された論文を50本発表していることを意味する。

h5-indexh-indexをベースに,大学や各分野の研究力の「厚み」を示す主要指標1)。単発の高被引用論文の影響をならす。

 この他に,現代では国際共同研究によってこそ質の高い研究成果が挙げられるという暗黙の了解があるため,国際性を測る指標として「国際共著論文率」が重視されている。さらに,前述の「研究力分析指標プロジェクト」は「Collaborative Network Index(CNI)」も国際的な大学間の共著関係性の強さを定量的に把握する指標として提案している1)。「国際共著論文機関数」と「共著論文数」の間でh-indexを用いてどれだけ多くの機関と強くつながっているかを定量的に把握する。CNIの値が10であれば,「10本以上共著論文がある海外大学・機関が10か所ある」ことを意味し,国際的な共同研究ネットワークの中でプレゼンスが大きい。

 またTHEでは「ネットワーク・スコア」と呼ばれる指標も導入予定。影響力の大きい論文から引用される論文ほどスコアが大きくなる仕組み。

 研究力評価の根本は「個々の論文の被引用数」であり,掲載された雑誌のインパクトファクター(IF)ではない。人事選考において「論文が掲載された雑誌のIFの合計を示せ」などという要件をまれに見かけるが,後述するように国際的な観点からみると残念なことである。

 ここでオープンアクセス(OA)と被引用数の関係が浮上する。Wiley社のパフォーマンス比較調査2)によれば,非OA(要購読)の論文に比して,OA論文(フルOAとハイブリッドOA)は平均被引用数が約1.6倍に向上すると分析されている。即時OAの場合には約1.8倍であるのに対し,論文発表から一定期間経過した後にOAとなる場合には,約1.1倍にしかならない3)

 本連載では繰り返し商業出版雑誌の価格やOA論文掲載料(APC)の高騰について言及してきた。このような研究成果発表の現状は決してサステナブルとは言えない。そこで注目されるのは,商業雑誌に頼らず研究成果をOA媒体に公開する方法だ。APCに基づくOA化が「ゴールドOA」と呼ばれるのに対し,査読前原稿をプレプリントサーバに公開することや,商業誌に発表した非OA論文の著者稿を大学機関リポジトリに公開することは「グリーンOA」と呼ばれる

 「プレプリント」を聞き慣れない読者もいるかもしれないが,医学生命科学業界でも一気に広まった。問題はプレプリントや機関リポジトリの原稿は,現状では被引用数を把握できない。また機関リポジトリでの論文原稿公開手続きは,著作権の問題や著者全員の合意などのハードルがある。(清澤注:自分の以前の論文が引用された査読前原稿が、researchgateから通知されたことが、これで了解できた。)

 研究評価に関しては,2012年に学術雑誌の編集者と出版社が「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」という勧告4)を起草し,多くの研究機関や学術団体が署名している。本勧告では「個々の研究論文の質をはかる代替方法として,インパクトファクターのような雑誌ベースの数量的指標を用いないこと」を明示し,「特にキャリアの初期段階にある研究者に対して,出版物の数量的指標やその論文が発表された雑誌がどのようなものであるかということよりも,その論文の科学的内容の方がはるかに重要であることを,はっきりと強調すること」を推奨している。また,多様な成果物のインパクトを測る方法について考慮されるべきと述べている。DORAの精神がより広く浸透してほしいと願う。

 

1)小泉周,他.「研究力分析指標プロジェクト」報告書(2016―2017年度).2018.
2)Wiley.Wileyジャーナルで論文を出版するときオープンアクセス(OA)を選ぶ利点とは? 2021.
3)Springer Nature. FACT SHEET(2022年2月).2022.
4)DORA.研究評価に関するサンフランシスコ宣言.

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