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[No.3740] 夏の路地に咲く「凌霄花」――美しさと目の健康にまつわる話

夏の路地に咲く「凌霄花」――美しさと目の健康にまつわる話

通勤途中、ふと遊歩道の脇に目をやると、鮮やかな朱色の花がひときわ目を引きました。花はラッパのような形で、空に向かって咲き誇っています。これは「ノウゼンカズラ(凌霄花)」という植物で、まさに今が見頃の夏の花のようです。

ノウゼンカズラは、つるを伸ばしながら高く登って咲く性質を持つことから、漢字では「凌霄(霄=そらを凌ぐ)」と書きます。まるで空を目指して登っていくかのようなこの植物は、中国原産で、平安時代より前に日本へと渡ってきたといわれています。その歴史を知るだけでも、この花が私たちの暮らしに長く寄り添ってきたことを感じます。

白居易も称えた「目を引く花」

この花はかつて、唐代の詩人・白居易(白楽天)の詩にも登場しています。ある詩では、庭に咲く凌霄花の鮮やかさを「空の高みから人の目を奪う」と詠んでいます。彼の詩に登場する花の多くは、自然の美しさだけでなく、人生や心情を象徴する存在として描かれていますが、凌霄花はとりわけ「視覚のインパクト」をもって語られている点に注目したいところです。

現代のように視覚メディアが発達していなかった時代において、強く印象に残る花が詩文に取り上げられ、広く愛されたということは、視覚の力の大きさを改めて感じさせてくれます。

凌霄花と漢方の話――目にも良い?

さらに興味深いのは、ノウゼンカズラの花は漢方薬としても古くから用いられていたということです。中国の中医学では、この花は「凌霄花(りょうしょうか)」という生薬名を持ち、主に瘀血(おけつ)を改善し、血行を促す作用があるとさるそうです。

瘀血とは、血液の流れが滞っている状態を指す東洋医学の概念で、打撲、月経不順、慢性の炎症性疾患などに加え、目の充血や目の奥の痛み、まぶたの腫れなどの症状にも関連づけられることがあります。つまり、古くは「目のまわりの鬱血」による不調にも、この凌霄花が用いられていた可能性があるのです。

もちろん、現代医学の眼科診療では科学的根拠に基づいた治療が基本ですが、こうした歴史的背景を知ることで、植物と医療、特に眼の健康とのつながりを興味深く感じることができます。

花と人の目の関係――診療室から見える風景

私は眼科診療の合間に、しばしばこうした「季節の花」を話題に患者さんと会話をします。

「先生、あの遊歩道に咲いてる花、なんていう名前ですか?」

「ノウゼンカズラですよ。中国から平安時代に来た花なんです。」

そんなちょっとした会話が、患者さんの緊張を和らげ、診療室の空気をやさしくするのです。

人は視覚を通して世界を認識し、感情を豊かにします。夏の鮮やかな花が目に留まるという行為そのものが、視覚の大切さを私たちに思い出させてくれるものです。

おわりに

ノウゼンカズラはただの美しい花ではありません。古代中国から渡ってきた文化のひとつであり、漢方薬としての効能も伝えられ、詩人たちに愛され、人の目を楽しませてきた歴史ある植物です。

夏の強い日差しの中、空に向かって咲くその姿にふと足を止めて、私たちの「見る」という行為のありがたさを感じてみてはいかがでしょうか。


(写真:筆者撮影。2025年7月15日 朝、東京・高円寺桃園川緑道にて)

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