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[No.3824] アルツハイマー病の遺伝的リスクを持つ人にも「歩くこと」と「食事改善」が有効

アルツハイマー病の遺伝的リスクを持つ人にも「歩くこと」と「食事改善」が有効

アルツハイマー病(AD)の発症リスクを高める遺伝子 APOE ε4 を持つ人は、加齢とともに認知機能が低下しやすいことが知られています。特に女性ではその影響が強く、ε4を1つ持つだけで発症リスクが男性の2倍、女性では8倍に上昇すると報告されています。ところが今年のアルツハイマー病国際会議(AAIC 2025)で発表された研究は、「歩くこと」と「健康的な食事」が、この高リスク群でも認知機能低下を抑えられる可能性を示しました。

研究の概要

カナダ・カルガリー大学のCindy Barha博士らは、米国のHealth ABC研究に参加した平均年齢74歳の2981人を10年間追跡。APOE遺伝型(ε2、ε3、ε4)と自己申告による歩行時間、そして2種類の認知機能テスト(注意力・記憶・処理速度などを測るDSSTと、全体的な認知力を測る3MS)の変化を調べました。

その結果、ε4保有者は男女ともに認知機能の低下が速い一方、歩行習慣のある人では低下が緩やかでした。歩行量が10%増えるごとに、複雑な思考力は女性で4.7%、男性で2.6%改善。全体的な認知力では女性で8.5%、男性で12%の改善が見られました。

研究者は「脳血流の増加、神経栄養因子の増加、血管新生促進、炎症や酸化ストレスの軽減」などが効果の理由と考えています。

複合的な生活習慣介入の効果

さらにフィンランド、日本、フランスで行われた3つの大規模試験(FINGER、J-MINT、MAPT)を統合解析した別の研究では、運動・食事改善・認知トレーニング・生活習慣管理を組み合わせた介入は、ε4保有者でより大きな効果を示しました。2年間の認知機能スコア改善は、非保有者より保有者で顕著でした。効果はアジア人・欧州人のいずれでも見られ、軽度認知障害(MCI)の有無を問わず有効でした。

ポイント

  • APOE ε4はADの遺伝的リスクの約半分を説明するが、生活習慣で影響を和らげられる可能性がある

  • 特に歩くことは簡単で誰でも始めやすい有効な方法

  • 運動と食事改善の組み合わせは、認知症リスクが高い人ほど効果的

  • 早期(中年期)から始めることで予防効果がさらに高まる可能性

眼科院長としての一言

加齢や認知症の進行は眼科にも関わりがあります。物忘れや判断力の低下は、緑内障や糖尿病網膜症の治療継続にも影響します。「歩くこと」「食事を整えること」は、脳だけでなく全身、そして目の健康にもプラスです。遺伝的リスクがあっても、毎日の習慣で未来は変えられます。まずは日々の生活に“歩く時間”を組み込むことから始めましょう。


出典

Anderson P. Walking and Diet Boost Cognition in At-Risk Adults. Medscape Medical News. July 30, 2025.

https://www.medscape.com/viewarticle/walking-diet-cognition-apoe-e4-aaic-2025 

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