ユーカリとティーツリー ― 街角の木と日々のケアをつなぐ植物の力
先日、新しく建てられた老人ホームのわきに一本の若木が植えられているのを見かけました。近寄ってみると、特徴ある丸い葉とすっきりした樹形。それはオーストラリア原産の「ユーカリ」でした。私は街角で見かける木にもつい興味を持ち、写真に収めてしまいます。今回はこのユーカリの由来と、同じ仲間である「ティーツリー」という植物の精油を用いた洗顔材を日常の診療でどのように使っているかをご紹介したいと思います。
ユーカリ ― 生命力の象徴
ユーカリはオーストラリアに自生する常緑高木で、コアラが食べる葉として有名です。種類は700以上あり、日本では観賞用や切り花としてよく見かけます。葉には独特の清涼な香りを放つ精油が含まれ、古くから消毒や風邪予防に用いられてきました。
老人ホームや医療施設にユーカリが植えられるのは、その清浄感ある香りに加えて「再生力」を象徴するからかもしれません。火事で焼けても根から芽吹き直す強靭さは、高齢期を支え合う場所にふさわしい木ともいえるでしょう。
ユーカリと「目」のエピソード
ユーカリ精油に含まれる「1,8-シネオール」には抗菌・抗炎症作用があり、かつては目の洗浄にも応用された記録が残っています。もちろん現代の眼科ではそうした直接使用は勧めませんが、自然の力を目や体の健康に活かそうとした歴史があるのは興味深いところです。最近では抗酸化作用や血流改善作用にも注目されており、眼精疲労や加齢黄斑変性などへの研究も続けられています。
ティーツリー ― ユーカリの仲間
一方、私が日々の診療で実際に活用しているのが「ティーツリー(Melaleuca alternifolia)」という植物です。これもユーカリと同じフトモモ科に属する仲間ですが、ユーカリほど大きくならない低木で、精油には強い抗菌・抗真菌作用があります。香りはユーカリよりもスパイシーで清潔感があり、洗顔料やシャンプーに広く利用されています。
目のまわりにティーツリークレンジングを
私はマイボーム腺機能不全(油分の分泌が滞り、目やにや涙の質の悪化を招く状態)の患者さんに、**ティーツリー成分を含んだ洗顔料(ティーツリークレンジング)**を勧めています。やり方は簡単で、
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一日1回、夜の洗顔時に
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指先に少量のクレンジングを取り
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目を閉じた状態で、まぶたのふちをやさしく洗う
これにより、余分な油分や汚れが落ち、まつ毛の根もとが清潔に保たれます。抗菌効果も期待できるため、まぶたの炎症や目やにの改善につながります。もちろん、直接目の中に入れないよう注意は必要ですが、安全に続けられるケア方法です。
植物が教えてくれること
こうしてみると、街路に植えられたユーカリの木と、日々の洗顔に用いるティーツリークレンジングは、一見関係がないようでいて、同じフトモモ科の仲間という共通点があります。どちらも自然界から人の健康を支える力を引き出してきた植物です。
私は患者さんに「ユーカリの仲間のティーツリーから作られた洗顔料でまぶたを洗うと、目やにやまぶたの炎症に効果がありますよ」と説明します。街角のユーカリの木を思い出していただければ、毎日のケアも少し身近に感じられるかもしれません。
おわりに
自然の植物は、目や体の健康に思わぬかたちで関わっています。老人ホームの庭に植えられたユーカリがご入居の方々の心を和ませるように、ティーツリーの香りをまとった洗顔習慣もまた、日々の生活にささやかな安心を届けてくれます。街角の木と毎日のスキンケア、その両方が私たちの「目の健康」に寄り添っているのです。
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