新年最初の読書として、故郷・松本に帰省した折、イオンモール内の書店で一冊の時代小説に出会いました。
それが、関ヶ原仁義(下)―三河雑兵心得 十七(井原忠正著)です。上中下巻のうちの「下巻」にあたりますが、新しく出たばかりの一冊です。前巻から続く物語を一気に読み終え、強い読後感を残す作品でした。
物語の主人公は、植田茂兵衛(うえだ・もへい)という名の三河の元足軽です。史実に名を残す人物かどうかは明確ではありませんが、井原作品らしく、歴史の大きなうねりの中に「名もなき兵」を据え、その視点から戦国末期を描き出しています。この“歴史の狭間”に立つ主人公の存在こそが、本作の最大の魅力でしょう。
物語には実在の歴史人物が数多く登場します。
勇猛果敢だが短気で乱暴者として描かれる本多平八郎忠勝。
策士でありながら、どこか人間味と茶目っ気を失わない徳川家康。
さらに本巻では、後に利根川治水を成し遂げ、関東の基盤整備に大きな功績を残す伊奈忠次(伊奈備前守)が重要な役割で登場します。戦場の英雄だけでなく、戦後の国家運営を担う人物にも光が当てられている点が印象的です。
本作のクライマックスは、言うまでもなく関ヶ原の合戦です。史実として知られるのが、東軍の徳川家康が、去就を決めかねていた小早川秀秋の陣に対し、鉄砲を撃ちかけて参戦を促したという逸話です。井原忠正はこの史実を巧みに物語に取り込み、単なる合戦描写ではなく、「迷い」「決断」「裏切り」が交錯する人間ドラマとして描き切っています。その結果、私たちは教科書で知っている関ヶ原とはまったく異なる、血の通った戦場を体験することになります。
本書は、2025年12月13日第1刷発行。出判ほやほやの新しい作品ですが、戦国時代を扱いながらも、現代の私たちにも通じるテーマ――組織の中でどう生きるか、上に従うとはどういうことか、そして自分の信じる「仁義」とは何か――を静かに問いかけてきます。
医療の現場でも、私たちは日々、即断即決を迫られます。正解が一つでない状況の中で、患者さんのために何を選ぶのか。その姿は、名もなき雑兵が戦場で下す決断と、どこか重なって見える気がします。
新年の始まりにふさわしい一冊として、心に残る読書体験でした。



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