
先日、阿佐ヶ谷の古い木造アパートの脇を歩いていたとき、足元に小さな黄色い花がひっそりと咲いているのを見つけました。派手さはありませんが、4枚の花びらがきれいに開いた、かわいらしい花です。よく見ると、茎やつぼみには細かい毛が生え、葉は深く切れ込んだ形をしています。
この植物の名は クサノオウ(草ノ王)。学名は Chelidonium majus といい、ケシ科に属する野草です。日本では道端や石垣のすき間、古い建物の脇など、やや人里に近い場所でよく見かけます。春から初夏にかけて鮮やかな黄色い花を咲かせ、昔からよく知られてきた植物です。
「草ノ王」という名前は、草の王様という意味ではなく、「瘡(くさ)」、つまり皮膚の腫れ物を治す草という意味から来ているといわれています。実際、この植物の茎を折ると、橙色の乳液のような汁が出てきます。昔の民間療法では、この汁をいぼなどの皮膚病に塗るとよいとされていました。そのため古くから薬草として知られていたのです。
しかし、この橙色の汁にはアルカロイドという刺激性の物質が含まれており、現在ではむしろ注意が必要な植物とされています。特に問題になるのは、目に入った場合です。
海外では、この植物の汁が目に入り、強い刺激によって角膜炎を起こしたという報告があります。症状としては、目の痛み、充血、涙が止まらない、まぶしさ(羞明)、一時的な視力低下などが生じることがあります。いわば植物による「化学性角膜炎」です。多くの場合は洗眼と点眼治療で回復しますが、強い刺激で角膜の表面が傷つくこともあります。
こうした話を聞くと少し怖い印象を受けるかもしれませんが、普通に道端で花を眺めている分には問題はありません。注意すべきなのは、茎を折って出てきた汁を触った手で目をこすったりすることです。特に小さなお子さんは、植物を触ったあとに無意識に目をこすることがありますから、気をつけたいところです。
道端の植物の中には、このクサノオウのように薬草として利用されてきた歴史を持つものが少なくありません。しかし同時に、自然の植物には思いがけない刺激性や毒性があることもあります。
阿佐ヶ谷の古いアパートの脇に咲いていたこの小さな黄色い花は、そんな自然の二つの顔を静かに教えてくれているように思えました。
街を歩くとき、足元に目を向けると、思いがけない植物に出会うことがあります。そしてその中には、医学や目の健康ともどこかでつながっているものがあるのです。
小さな花ですが、なかなか奥の深い植物でした。
出典
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Plants of the World Online: Chelidonium majus
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European case reports of keratitis caused by Chelidonium majus sap
清澤コメント
道端の植物は美しいものですが、汁や樹液には思いがけない刺激性を持つものもあります。植物を触ったあとには手を洗う、そして目をこすらない。この基本的な習慣が、意外な眼障害を防ぐことにつながります。



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