大学病院が直面する危機 (医学界新聞 2025.3.11)
清澤のコメント:保険診療が病名と入院期間の掛け算という丸め方式(注)で計算されたりと、研究的な診療もその使命の一部と考えるべき大学病院では、赤字が顕在化しているというのは真実であろうと思われます。開業医でさえも普通の診療で赤字が出かねない状況では、大学病院の赤字化についての対策を早急に打たないと、大学病院としての機能は早晩破綻する恐れがあるというのは真実でありましょう。
注:、「診断群分類包括評価支払制度(DPC/PDPS)」と呼ばれます。この制度は、特定の診断群に基づいて、1日あたりの定額報酬を算定する仕組みです。日本では、急性期入院医療を対象として導入されています。
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要旨抜粋:2024年10月に発表された国立大学病院の収支見込みでは、全国42施設のうち32施設が赤字となり、全体の赤字額は250億円以上に達することが明らかになった。この背景には物価高騰や人件費の上昇があり、大学病院の存続が危ぶまれる状況となっている。
アフターコロナの影響
コロナ禍の影響で大学病院の外来患者数は大幅に減少し、現在もコロナ前の水準には回復していない。入院患者数も同様で、病床稼働率の低下が経営を圧迫している。一方で、手術件数は回復の兆しを見せているものの、今後の働き方改革の影響が懸念される。また、COVID-19が5類感染症へ移行したことで国からの補助金が打ち切られ、財政的な打撃が大きくなった。
高度医療と経営の矛盾
大学病院は高度な医療を提供する役割を担うが、それに伴う医療費の増加が経営を圧迫している。医薬品や医療機器のコスト増、光熱費の高騰、人件費の上昇などが支出を押し上げており、結果として増収減益に陥っている。また、施設の老朽化により建て替えが必要だが、物価高騰により予算が大幅に増加し、計画の見直しを余儀なくされている。
臨床偏重と教育・研究の危機
国立大学病院は運営費の一部を国からの交付金に依存しているが、その割合は減少傾向にある。一方、私立大学病院は自力で収益を上げる必要があり、土日診療などで対応している。国立大学病院でも診療時間の拡大が進んでいるが、これにより研究や教育の時間が削られ、アカデミアとしての魅力が低下している。医学研究の国際競争力も低下し、研究者の時間確保が課題となっている。
経営改善のための提言
大学病院の財政基盤を強化するため、診療報酬の引き上げや、高度医療に特化した診療報酬制度の導入が求められる。また、病院運営にかかる消費税負担の軽減も検討すべきである。さらに、医療従事者の働き方や収益構造について国民に理解を促し、政府や自治体の支援体制を強化する必要がある。
大学病院の存続と国民の健康
大学病院は地域医療のインフラであり、高度医療の最後の砦でもある。その存続が危うくなることは、医療崩壊につながる可能性がある。大学病院の役割を維持し、医療技術の発展を支えるためにも、国全体で支援体制を整備することが求められる。
日本の医療は国際的にも高い水準を誇り、医療イノベーションの創出に不可欠な大学病院の存在は、日本社会にとって欠かせないものである。今後、国民の理解を得ながら、国全体として大学病院の経営改善に取り組む必要がある。
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