このシンポジウムは「網膜・視神経疾患のトランスレーショナルリサーチ」というテーマで、「基礎研究の成果を、医薬品や医療機器など臨床現場での実用へと橋渡しする研究分野」です。眼科学の世界でも知っている人の間では有名なのでしょうが、私が今まで知らなかった演者が各分野を切り開いている様子がうかがわれます。今回の抄録でも英文抄録が多く取り入れられていて、一般聴講者が斜めに読んでその意図を把握するのは容易ではありません。そこで英文の混じった抄録をコピーしてAIに素人にわかる文体にして、しかも1600文字程度の日本語に纏めさせることで講演の内容の概要を推測することができました。
網膜・視神経疾患のトランスレーショナルリサーチ
シンポジウム8 2025年4月17日(木)15:35〜16:55
網膜・視神経疾患のトランスレーショナルリサーチTranslational Research in Retinal and Optic Nerve Diseasesの概要です。
オーガナイザー 栗原 俊英(慶應大学)、喜田 照代(大阪医薬大学)
概要:
トランスレーショナルリサーチは、大学などの研究機関で得られた基礎研究の成果を、医薬品や医療機器など臨床現場での実用へと橋渡しする研究分野です。基礎研究で得られた有望な「シーズ(種)」と、臨床現場での「ニーズ(必要)」を結びつけることを目的としており、現在、世界中で多数の前臨床研究や臨床試験が進行しています。網膜領域における成功例として、OCT(光干渉断層計)や抗VEGF療法が挙げられます。OCTは、非侵襲的に網膜の高解像度画像を取得できる診断機器として、網膜硝子体疾患の治療に不可欠な存在となっており、また抗VEGF療法は、新生血管型加齢黄斑変性をはじめとする難治性黄斑疾患の視力予後を大きく改善しました。
S08-1 堅田 侑作(慶應大/(株)レストアビジョン)
視覚再生遺伝子治療の開発最前線
網膜色素変性症は、日本において若年層の失明原因として大きな割合を占めており、視細胞や網膜色素上皮細胞の変性を特徴としますが、脳への視覚経路は多くが保たれています。オプトジェネティクスは、残された細胞に光感受性を付与することで視覚再生を目指す技術であり、2006年のラットでの概念実証以来、光感受性センサーやベクター技術の進歩により、臨床応用が近づいています。
フランスのGenSight Biologics社が世界初の臨床的改善症例を報告し、東北大学やアステラス製薬、慶應大学と名古屋工業大学の連携など、日本でも独自の開発が進んでいます。遺伝子治療はその複雑さから、製薬大手ではなくスタートアップ企業が主導することが多く、日本での安定供給や産業化にはトランスレーショナルリサーチの強化が不可欠です。これにより、日本の創薬競争力向上にも貢献が期待されます。
S08-2 本庄 恵(東京大学)
緑内障点眼薬開発と今後に向けての基礎研究について
Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬は、緑内障の新たな治療薬として注目されています。Rho-ROCK経路は線維化や眼圧調節に重要な役割を果たしており、私たちはこの経路を活性化する脂質メディエーターLPAとその生成酵素であるオートタキシン(ATX)に着目しています。
緑内障眼の房水中でLPAおよびATXの濃度を定量した結果、ATX-LPA経路の活性化は眼圧上昇や緑内障の重症度、サブタイプに有意に関連していることがわかりました。さらに、新規ATX阻害薬を作成し、正常マウスでの眼圧低下作用、LPIモデルマウスでの眼圧上昇抑制効果を確認しています。最近では、ATX条件付きトランスジェニックマウスを作成し、3ヶ月間の眼圧上昇とRGC数の減少を観察しました。今後はこの高ATX環境が緑内障の病態や治療反応に与える影響を解明したいと考えています。
S08-3 池田 華子(大阪医薬大学)
眼疾患に対する新規薬剤開発における創薬戦略
基礎研究で疾患の機序や特定の薬剤の効果が明らかになると、その成果を臨床応用につなげたいという自然な願望が生じます。しかし、医学教育では創薬の詳細なプロセスが教えられることは稀で、経験者も少ないため、新薬を効率的に開発する方法は理解しにくいのが現状です。
私は、スクリーニングから化合物最適化、初のヒト投与試験(first-in-human)までの一連の創薬や、既存薬を用いた医師主導の第II相試験を実施した経験があります。本講演では、アカデミアでも実践可能な化合物ライブラリによるスクリーニングや、ドラッグリポジショニングの実際の手法について紹介します。既存薬ライブラリからの探索は臨床応用まで比較的近道ですが、一般的な化合物ライブラリからの新薬開発は、リード化合物の同定や最適化、有効性・安全性の評価など多くのハードルがあります。
これらの過程を乗り越えるには、専門的知見を有する製薬企業との連携が不可欠です。聴講者の皆さんが創薬に関心を持ち、眼科疾患の新たな治療法への挑戦につながることを願っています。
S08-4 高橋 秀徳(筑波大学/自治医科大学)
眼底撮像装置用AIの開発と克服すべき現状の問題について
私はDeepEyeVision社を設立し、眼底写真の異常を可視化するDeepEyeVision for RetinaStationや、網膜血管密度の異常を表示するDeepEyeVision for Californiaなどの眼底スクリーニング支援ソリューションを開発しました。眼科医が頑張れば実施できる機能には需要が低く、逆に専門医でも対応困難な機能は精度の向上が困難でした。さらに、対象疾患の有病率が低いと需要も乏しくなります。
診断支援プログラムの承認取得には1億円以上の費用がかかります。既存装置の認証範囲内に機能を限定すれば安価な認証が可能ですが、開発費の回収は依然として課題です。したがって、認証取得には公的補助金を活用し、リスクとコストを抑えた上で、医療機器メーカーに提示する戦略が重要です。現在は、有病率の高い緑内障を対象に、OCT画像から視野を推定する研究を進めています。
S08-5 田中 慎(横浜市立大学)
網膜硝子体疾患におけるデジタル支援手術、ロボティクス、AIの進展
網膜硝子体手術の分野では、デジタル支援手術が注目されています。3Dディスプレイを用いた術式は、術者の姿勢を改善し、拡大率や焦点深度の向上、画像処理による視認性の向上が得られます。また、従来の顕微鏡を超えた手術技術として、波長分解可能なハイパースペクトルカメラや近赤外カメラを用いた研究も進んでいます。
より精密な手術の実現に向けて、眼科手術用ロボットの開発も進行中です。現在は術者が術前診断や術中映像を評価しながらロボットを操作していますが、将来的にはAIによる画像解析や術中ナビゲーション、ロボット操作の自動化が期待されます。本講演では、これらの革新的技術の可能性について紹介します。
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