眼科医療経済等

[No.3821] 高齢化医療の新しい潮流:ジェロサイエンス

高齢化医療の新しい潮流:ジェロサイエンス

ジェロサイエンスは、加齢に関連する生物学的経路を特定し、それを修飾して加齢の進行を遅らせることを目指す。目的は、「障害のない生存期間(健康寿命)」の延長。

背景

2020年から2050年にかけて、米国の65歳以上人口は約3,300万人増加すると予測されています。高齢化は、脳卒中、心不全、認知症、多くのがん、冠動脈疾患、身体機能低下といった加齢関連疾患の急増を伴います。従来の医療は疾患ごとの治療に焦点を当ててきましたが、加齢そのものがもたらす多疾患化や機能低下を直接抑えることは難しいのが現状です。そこで注目されているのがジェロサイエンスという新しい学問領域です。

ジェロサイエンスとは

ジェロサイエンスは、加齢に関連する生物学的経路を特定し、その働きを修飾して加齢の進行を遅らせることを目指します。目的は、疾患予防だけでなく「障害のない生存期間(健康寿命)」の延長です。

研究で示されたアプローチ例

  1. カロリー制限

    マウスでは平均寿命を10〜40%延長し、栄養感知、タンパク質合成、オートファジー、炎症など複数の細胞経路に良い影響を与えます。肥満や糖尿病の成人では、全死因死亡率を15%低下させ、体重関連の慢性疾患発症も減少しました。

  2. ラパマイシンとその類縁薬

    免疫抑制薬ラパマイシンはマウス寿命を延ばし、高齢者ではエベロリムスがインフルエンザワクチンの抗体反応を改善しました。

  3. 老化細胞の除去(セノリティクス)

    老化細胞は加齢で増加し、機能低下や死亡率増加と関連します。動物実験では除去により寿命延長や心機能改善が確認されていますが、人での有効性はまだ不明です。

結論

カロリー制限、メトホルミン、セノリティクス、ラパログなど、加齢生物学そのものを標的とした治療法は、人間でも疾患や機能低下の進行を抑える可能性があります。これらが確立されれば、複数の加齢関連疾患を一度に予防し、健康寿命を延ばす未来が期待されます。

院長コメント

眼科診療でも加齢は視機能低下や疾患リスク上昇の大きな要因です。ジェロサイエンス的発想を取り入れることは、単に眼病を治すだけでなく、患者さん全体の健康と生活の質を守ることにつながると考えます。

出典

Kritchevsky SB, Cummings SR. Geroscience—A Translational Review. JAMA. Published online August 7, 2025. doi:10.1001/jama.2025.11289

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