JAMA社説から考える:2026年メディケア・アドバンテージの混乱とは何か
2026年2月18日にオンライン公開されたJAMAの社説(Hannah O. James, MD, MS. DOI:10.1001/jama.2026.0132)は、米国の高齢者医療保険制度「メディケア・アドバンテージ(MA)」で起きている大規模な“保険の強制変更”問題を取り上げています。
■ 何が起きているのか
米国では、民間保険会社が運営するメディケア・アドバンテージに加入している高齢者が多数います。ところが2026年、約290万人、すなわち加入者の約10人に1人が「自分の加入していたプランが市場から撤退したため、別の保険を探さざるを得ない」という事態に直面しています。
バーモント州では、なんと加入者の92%が影響を受けました。
2018~2024年まで、こうした強制的な保険変更は年1%程度でした。しかし2025年には6.9%へ急増、2026年は約10%に達すると予測されています。これは前例のない規模の混乱です。
■ どのような人が影響を受けやすいのか
研究では、次のような傾向が示されました。
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PPO型プラン加入者はHMO型より影響が大きい
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小規模保険会社の撤退が多い
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農村部の住民は都市部のほぼ2倍の割合で影響を受けている
一方で、所得や健康状態による大きな差は認められませんでした。つまり、社会的に脆弱な人々も、そうでない人々も同様に混乱に巻き込まれているということです。
■ お金は足りていないのか?
直感的には「保険会社への支払いが少ないから撤退するのでは」と考えたくなります。しかし実際には、2026年は公的支払い率が5%以上増加する予定でした。
さらに、メディケア・アドバンテージは従来型メディケアより約20%高い支払いを受けていると推計されています。それでも撤退が進んでいるのです。
この事実は、単純に「支払い不足」の問題ではない可能性を示しています。
■ 構造的な問題
社説は重要な問いを投げかけています。
民間の営利保険モデルでは、「より収益性の高い加入者を集め、収益性の低い層を避ける」インセンティブが働きやすいのではないか。
支払いを増やしても撤退が止まらないのなら、制度設計そのものに課題があるのではないか。
これは医療経済学的にも極めて本質的な問題です。
■ 患者にとって何が問題か
高齢者が突然プラン変更を迫られると、
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主治医との関係が断たれる
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専門医への紹介が中断する
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処方薬が変更される
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医療費自己負担が増える
といった事態が起こります。
糖尿病や心疾患など慢性疾患を抱える高齢者にとって、これは健康悪化につながりかねません。
農村部では代替プランが少なく、従来型メディケアへ戻るしかないケースもあり、補足保険を購入できなければ保障水準が下がる可能性もあります。
■ 眼科医として感じること
私は日本で診療を行っていますが、この問題は決して「他国の話」ではありません。
医療制度は「財源」だけでなく、「設計」が極めて重要です。
資金が増えても、インセンティブ設計が患者利益と一致していなければ、混乱は続きます。
とくに慢性疾患を持つ高齢者にとって、医療の継続性は生命線です。
制度変更や保険撤退が医療アクセスを断ち切る構造になっていないか――これはどの国でも常に検証されるべき課題でしょう。
■ 本社説が投げかける核心
今年290万人が保険を失うという事実は、単なる支払い率の問題ではなく、
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民間保険モデルは普遍的アクセスを保証できるのか
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プランの利益動機と公的受益者保護は両立しているか
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農村部や弱者層への保障は十分か
という根本的な問いを私たちに突きつけています。
医療制度は「安定性」と「公平性」がなければ機能しません。
この社説は、医療政策の“設計思想”を見直す必要性を静かに、しかし強く訴えています。
出典
James HO. 2026 Medicare Advantage Coverage Disruption. JAMA. Published online February 18, 2026. doi:10.1001/jama.2026.0132



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