全身病と眼

[No.1932] 熱中症診療これだけ! 診断・治療を遅らせるな:

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

徳竹雅之先生の連載ですが、此のところ連日の暑さは並ではない2023.08.21 週刊医学界新聞(レジデント号):第3529号より抜粋です。

 地球温暖化はさらに進行することが予見されており,気温が高くなるとあらゆる理由での救急外来受診が増え,その滞在時間も長くなることが指摘されています。忙しい状況でも熱中症診療を抜け目なくサクサクこなせるよう,下記①~③のピットフォールを確認しましょう。

 熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」であり,多様な症状や徴候を一連のスペクトラムとしてとらえています。『熱中症診療ガイドライン2015』で紹介されている重症度分類を眺めてみましょう()。実に多様かつ非特異的な症状が記載されていますが,極端に言ってしまえば症状などどうでもよく,「暑熱環境にいた」かどうかが最も重要です。患者等から「暑熱環境にいた」という情報が得られれば,熱中症疑いの暫定診断をつけて迅速に治療を始めなければなりません。体温上昇がない場合があるのもピットフォールです。高体温が認められることが一般的ですが,大多数を占めるのは脱水や電解質異常を中心とした症状を呈する,より軽症な熱中症です。処置がされていると正常体温であることも多いので,高体温がないことを根拠に診断を除外してはいけません

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 日本救急医学会熱中症分類2015(文献3より転載)

 鑑別診断は挙げておくべきで(,特に敗血症はいつでも鑑別上位に挙がってきますので,fever workupと抗菌薬治療の閾値は下げておいたほうが良いでしょう。さらに,多くの疾患は暑熱にさらされることで悪化したり誘発されたりすることがあるので,基礎疾患の増悪がないか考えておくことも重要です

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 熱中症を疑った際の鑑別診断

 熱中症の治療は,迅速な冷却がポイントです。理想的には来院から30分以内に深部体温を38℃台に低下させることが求められます最も効果的な方法は冷水浸漬です。鑑別診断を考えすぎて検査していると,とても30分以内での治療遂行はできません。

 受診時点で38℃以上が確定していれば深部体温測定を開始します。ルートと採血くらいを済ませたらそのまま冷水浸漬へGo!。冷水であっても氷水であっても体温低下率にそれほど差はありません。この方法はもはや院内外において熱中症に対する標準的な治療となっています。第一報で熱中症による高体温が疑われる場合には,ベッドバスに氷水をなみなみと注ぎ患者さんを冷水に浸しています。冷水浸漬をする設備がない場合には,脱衣させた後に扇風機で仰ぐ,氷嚢で頸部/腋窩/鼠径部を冷却する,冷輸液を使用するなどを組み合わせて治療に当たると良い。蒸散冷却法による体表からの水分蒸発に伴うエアロゾルを介したSARS-CoV-2感染のリスクはない。

 サーモガードシステムなど体温管理療法に使用する機器を使用することも可能だ,それぞれ診療報酬的に適応外であったり手技的な問題があったりでやや使いにくさがある。1つの方法にのみ頼るのではなく複数の方法を組み合わせることが重要。薬剤による高体温への治療は効果的ではない。

 迅速な冷却が済んだ後は臓器障害に応じて治療をする。重症度のグラデーションがある。高体温を主体に神経学的な異常が出るのが初期段階で,発症から24~96時間ほどかけて炎症反応や凝固障害が主体となる段階,肝臓や腎臓などの臓器不全が主体となる段階などが,時間経過と共に現れてくることがある。初期治療後のモニタリングおよび病態に合わせた治療も必要になる。

 熱中症で受診する患者の大部分は脱水を主体とした症状であり,冷所での点滴または水分摂取でだいぶ元気になります熱中症患者を帰す時には少し配慮が必要です。

 まず,健康な若者たちはスポーツや屋外での仕事にすぐに復帰を禁止。最低でも24~48時間は暑熱環境を避けるよう指導。すぐに暑熱環境に復帰すると,熱中症の再燃や重症化を起こすことがあります。

 中年~高齢者では,自宅環境が整っているのかどうかをよく確認しましょう。熱中症と環境/社会的要因には大きな関連がある。家に冷房がなかったり電気代を支払えずに電気が止まっていたり,なんて患者もよくいる。気温が37℃を超えると扇風機は何の意味も持たなくなります。そういった場合には医療ソーシャルワーカーらを中心に環境を調整できるか検討し,難しそうであればいったん入院してもらって体制を整えることを考慮してください。

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