甲状腺眼症の治療
清澤のコメント:
市内で開業していると、バセドウ病の甲状腺眼症に出会うことはあまり多くはありませんが、橋本病で軽度の複視を疑う例にしばしば遭遇します。治療には従来ステロイドが多く用いられてきましたが、最近ではIGF-1Rを標的とするモノクローナル抗体、テプロツムマブの話題が増えています。オリンピア眼科病院の神前あい先生が甲状腺眼症の治療について日本の眼科の「眼科医の手引」で説明しているので、要点をまとめます。
1.甲状腺眼症とは
甲状腺眼症は、バセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患に関連する眼窩の炎症です。ドライアイや結膜充血、眼瞼腫脹、眼球運動障害、眼球突出などの症状が現れます。40%の症例でバセドウ病と同時に眼症状が発症し、20%では眼症状が先行します。甲状腺疾患の既往がなくても、眼瞼腫脹や眼球突出、複視を主訴に眼科を受診する例があるため、注意が必要です。
2.甲状腺眼症の治療
① 活動期の治療
- 活動期の判定: 欧米では、眼窩痛や結膜充血など7項目のうち3点以上で活動性を判定するClinical Activity Score(CAS:下の記事参照)が使用されます。日本では、CASに加えてMRIによる精査が推奨されています。
- 治療法: 炎症にはトリアムシノロンアセトニド(TA)注射や、ステロイドパルス治療が行われます。複視にはA型ボツリヌス毒素注射が検討されます。週1回のステロイド投与法もあり、効果は異なりますが外来で施行可能です。
② 非活動期の治療
- 数年経過して球後病変が鎮静化した後は、斜視手術や眼窩減圧術などが検討されます。
3.分子標的薬による新たな治療
近年、甲状腺眼症の免疫学的理解が進み、テプロツムマブなど新しい治療法が注目されています。テプロツムマブは、2020年にFDAにより甲状腺眼症の治療薬として承認されました。日本でも臨床試験が進行中で、今後、ステロイド以外の治療が可能になる可能性があります。
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