全身病と眼

[No.258] 前立腺がんの治療(ビカルタミドとリューブリン)には視力減退の副作用があるか?

清澤の最終コメント:緑内障と白内障のある患者さんから、前立腺がんの治療(ビカルタミドとリューブリン)には視力減退の副作用があるか?ということを問われました。そこで少しばかり調べなおしてみました。この患者さんに視湯されていた薬剤名を調べても、前立腺がんの治療薬が緑内障や白内障を悪化させるという機序は特に疑うことができないと思いました。緑内障と白内障の治療をお続けいただきましょう。

ーーーーー調査結果ですーーーーーー

並木幹夫(なみき・みきお)先生の記事では男性ホルモンを抑えてがんを縮小させる各種の薬剤が紹介されています。

精巣と副腎から分泌される男性ホルモンをブロック

前立腺がんは男性ホルモンと関係が深く、男性ホルモンがたくさんあるほど増殖する性質があります。そこで、男性ホルモンの分泌やその作用を抑えて、前立腺がんを小さくしていくのがホルモン療法です。
 男性ホルモンは主に精巣(せいそう)から分泌されていますが、一部は副腎(ふくじん)からも分泌されます。そこで、精巣からの男性ホルモンをブロックする薬と、副腎からの男性ホルモンをブロックする薬があります。

  • 精巣からの男性ホルモンをブロックするLH-RHアゴニスト

精巣からの男性ホルモンをブロックする方法として多く使われているのは、LH-RHアゴニスト(酢酸ゴセレリン/商品名ゾラデックス、酢酸リュープロレリン/商品名リュープリン)と呼ばれる注射剤です。LH-RHとは性腺刺激ホルモン放出ホルモンのことです。
 薬が効くメカニズムは:精巣から分泌される男性ホルモンのテストステロンは、脳内にある下垂体から分泌されるLH(性腺刺激ホルモン)によって分泌をコントロールされています。さらに、LHは、脳内の視床下部から分泌されるLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)によって分泌をコントロールされています。LH-RHLH→テストステロンという順番で分泌されていくわけです。そこで、この流れのいちばん上流であるLH-RHが働かないようにしてしまおう、というのがLH-RHアゴニストという注射剤です。
 LH-RHアゴニストは、LH-RHと似た構造の偽物で、下垂体にあるLHの受け皿である受容体と結びつきます。このため、本来結びつくはずのLH-RHがやってきても、結びつくことができません。結果として、LHは分泌されなくなるしくみです。
 LH-RHの偽物を送り込んで、本物のLH-RHを働けないようにしてしまうのが、この注射剤です。LH-RHアゴニストは、下腹部に打つ皮下注射です。月に1回注射を打つタイプなどがあります。

  • 副腎からの男性ホルモンをブロックする抗アンドロゲン薬

副腎から分泌される男性ホルモンをブロックするには、抗アンドロゲン薬を使います。アンドロゲンは男性ホルモンの総称です。
 抗アンドロゲン薬は飲み薬で、副腎から分泌された男性ホルモンが、前立腺の内部でがん細胞に対して働くのを防ぐ作用をもっています。
 抗アンドロゲン薬にはステロイド系のもの(酢酸クロルマジノン/商品名プロスタール)と、非ステロイド系のもの(ビカルタミド/商品名カソデックス、フルタミド/商品名オダインなど)があります。
 ステロイド系のものは、副腎から分泌された男性ホルモンの働きを抑える作用のほかに、下垂体からのLHの分泌を妨げ、テストステロンの分泌を抑える効果があります。一方、非ステロイド系のものは、副腎から分泌された男性ホルモンのがん細胞への働きを防ぐ作用だけをもっています。
 抗アンドロゲン薬の副作用には、ステロイド系では、性機能障害(勃起(ぼっき)障害=ED)と女性化乳房(乳房が女性のようにふくらむ)があり、非ステロイド系では肝機能障害と女性化乳房があります。
 非ステロイド系のものは、男性ホルモンの分泌自体を抑制することはないので、性機能障害はおこりにくいと考えられています。このため、性機能を重視する場合は、非ステロイド系の抗アンドロゲン薬を単独で用いることもあります。

 

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