神経眼科

[No.2971] 瞳孔と網膜が関連する眼の2種類の暗順応を説明します:

暗順応(dark adaptation)は、明るい場所から暗所に移動した際に視覚が徐々に回復する過程で、特にロッド(杆状体細胞)が中心的な役割を果たします。この過程では、光受容体であるロドプシンが再合成され、光に対する感受性が増強されます。ロドプシンは光によって分解され、その後暗所で再び急速に合成されることで、視覚が改善されます。ロドプシンの再合成にはビタミンAが関与し、視覚サイクルを支えます​(SpringerLink)

暗順応の最初の段階では、瞳孔が散大して暗所に入る光の量が増加します。通常、明所での瞳孔径が約3mmであるのに対し、暗所では約7mmに拡大し、瞳孔面積は約5倍に増加します。このため、網膜に到達する光量も約5倍に増え、暗順応の初期段階で急速に視覚が回復します​(Nature)

さらに、暗順応中の網膜感度の変化も注目すべきです。暗順応の初期段階では錐体細胞が主に働き、感度が10〜100倍に増加します。その後、杆状体が主に活動する段階に移行すると、感度は1,000倍以上に上昇し、最終的には100,000倍に達します。この段階では、非常に微弱な光でも感知できるようになります​(Computational Ophthalmology)

緑内障や糖尿病網膜症では、こうした視覚回復のプロセスに遅延が生じます。緑内障では視神経の損傷が原因で、光を網膜から脳に伝達する速度が遅くなり、暗順応が遅延します。特に、視神経機能の低下によってロッドの活動が阻害され、暗所視が通常よりも長時間かかることが確認されています​(Nature)。糖尿病網膜症の場合、網膜の微小血管障害や酸素供給不足が関与し、ロッドの酸素需要に応じた供給が追いつかないため、暗所での感度回復が遅れます。また、糖尿病による酸化ストレスや炎症反応が網膜神経細胞にダメージを与えることも、暗順応遅延の一因です​(MDPI)

こうした数値的根拠を加味すると、緑内障や糖尿病網膜症の患者における暗順応の遅延が、視覚機能にどれほど影響を与えるかが具体的に理解できます。視覚感度が通常の患者では数十倍から数千倍に急激に増加するのに対し、これらの疾患により感度の増加が阻害されるため、暗所での視覚が著しく低下する可能性があります​(Computational Ophthalmology)(SpringerLink)

 

単語解説:暗順応

明るい場所から暗い場所に入ったときなどほとんど何も見ることができないが、2~3分くらいすると徐々に見えるようになリ、ついには暗い中でも人の顔を見分けられるようになる。暗がりで見える能力のこの変化が暗順応(dark adaptation)と呼ばれる。すなわち、暗いところで時間を過ごすにつれて、暗順応を説明する二つの過程が生じる。

一つは、目の瞳孔が大きさを変えることであり、周囲の環境が暗くなると目の瞳孔が拡がる。もっと重要なことは、受容器内で光化学変化があり、光に対する受容器の感度を増大させることである。

下図は暗順応曲線(dark adaptation curve)を示している。暗順応曲線は、暗闇にいる時間の長さとともに絶対閾が下がる様子を示している。

曲線には二つの部分があり、上側の部分は錐体の順応を示し、錐体の順応は、かなり急速に起きている。錐体は、おおよそ5分以内で完全に順応している。

錐体が順応しつつある間、桿体もまた順応しつつあるが、ゆっくりとしたものである。結局は、桿体の順応は、すでに完了している錐体の順応に「追いつく」が、桿体は、その後さらに25分くらい順応し続ける。(NPO法人日本統合医学協会)

10月の薄暮に急増…交通事故に注意したい「目」の病気:日刊ゲンダイ記事引用

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