私も著者の一人として執筆して最近完成した成書の一ページです。御笑覧ください
機能性・心因性視覚障害:清澤源弘・小野木陽子
正攻法その1:詐病の可能性も考える
※正攻法のここが大事!
機能性視覚障害または心因性視覚障害とは、症状を説明できるだけの眼科学的な異常がない、あるいは異常が軽徴であるにもかかわらず、患者が視力の低下や視野異常などを訴える症状である。機能性視覚障害は症状の側面を重視した診断名であり、心因性視覚障害はストレスや心理的な問題によって引き起こされているらしいという側面を重視した診断名である。近縁で判別が難しいものに、疾病利得を目的として他者を欺く目的をもって意図的に視覚障害を装う詐病が存在する。機能性・心因性視覚障害患者は自分の眼に異常を感じているが、眼科医師による検査でそれを説明し支持する異常が見つからないため、ストレスを感じることもある。機能性視覚障害の治療法としては、症状に対する医師の確認や患者教育、適切なフォローアップが求められる。心因性視覚障害では患者本人はあまり不便を訴えない場合もある。主な治療法は経過観察だが、筆者は臨床心理士による心理療法を取り入れている。
正攻法その2:視力障害,視野障害への対応
※ 正攻法のここが大事!
- 視力障害
機能性・心因性視覚障害の特徴的な所見としては、トリック法による矯正視力の改善や、検査 所見間の矛盾(字一つ視力と字詰まり視力、遠見と近見、視力と立体視などの乖離)があげられる。患者と検者の信頼関係が不十分だと診断が難しい。
2.視野障害
aトンネル視野 (上の図参照)
1m程度の対座法で検者の指の数が数えられる範囲を決める。次に距離を倍以上に延ばして同じ範囲を求める。トンネル視野では、被検者との距離にかかわらず、ほぼ一定の直径の視野を示すことがあり、これをトンネル視野とよぶ(図1)。
. b らせん状視野 Goldmann 視野計で、大きな指標を用いて経線に沿って30°ごとに2周り程度視野を測る。視野の直径が試行ごとにだんだんに狭くなり、1周したところでは明らかにもとより狭くなるらせん状視野が記録できる(図2)。この測定では初めかららせん視野を疑って検者が測定を移動させる必要がある。
この最も有効ならせん状視野の検出という方法は、Goldmann 視野計のない診療機関では調べられない。Humphrey 視野計では測定の進行に伴い可視領域が狭まり、最初の閾値設定時が広いため、4つ葉のクローバー状の視野になるか、中心しか残らない不安定な視野が得られる可能性が高い。片眼の半盲なのに、両眼開放で測定した視野も半盲状を呈している。
C その他の視覚症状
心因性視覚障害では色覚・調節・眼位異常および複視。眼痛、羞明、変視症 、色視症などの症状も示すことがある。
秘技その1、直感的にその目の状態が測定された視力や視野にマッチしているかどうかをまず考えよう
★ これが秘技!
視力や視野が悪すぎるなら、心因性視覚障害か詐病も考えられる。しかし、心因性視覚障害や詐病と決めつけて重要な疾患を見逃さない注意も必要である。無色素性網膜ジストロフィーの初期などでは網膜電図も使えるし、アルビノに出やすい先天黄斑低形成やX連鎖性若年黄斑分離症などでは3次元画像解析もその診断に有効である。
秘技その2、詐病の確信を得られたとされる先人からの口伝例
★ これが秘技!
以下は、詐病と診断された患者の行動を目撃した先輩医師からの口伝である。フィラデルフィアの Wills Eye Hospital 神経眼科部門のSavino 教授は、手探り状態の患者が長い診療後に退室する、眼を拭いたティッシュペーパーをゴミ箱に投げ入れるのを目撃した。東京医科歯科大学神経眼科の藤野貞先生は、神経眼科外来で診察した患者が、病院外で白杖を折り畳み帰って行くのを見た。
白杖にも正しい使い方がある。これ見よがしに白杖を地面に叩きつけながら歩くのもある意味怪しい。
秘技その3、臨床心理学を応用する
※ これが秘技!
心因性視覚障害は小児~思春期の視力障害では一定数みられ、学校健診で視力低下を指摘され来院するケースが多い。その多くは両限性であるが、外傷などが誘因の場合には片眼性のこともある。どちらかといえば、患者は内向的で自己表現が苦手な子どもが多い。多動、場面緘黙、自閉スペクトラム症が心因性視覚障害を誘発している場合もある。
児童患者には描画法を用いることが多い。継続して描いた描画はその変化で症状、生活環境、対人関係、心理状態の改善がわかる。描き終わった後で、カウ
ンセラーは作品について質問し、 患者と協同の時間をもつ。理解度の高い児童には認知行動療法(cognitive behavioral therapy: CBT)も行う。カウンセリングの目的と利点は、①本人が無意識の不安や悩みに気づくこと。 ②親と一緒に通院する時間を共有し、親が自分のために時間を作ってくれているという愛情を認識すること、③主治医への詳しい情報伝達などがある。
描画療法はパーソナリティを理解・診断するための1つの方法として使われる。作品として残るので視覚化もできる。CBTは問題志向型の治療法で、通常1回45~50分のセッションが5~ 20回行われる。「反応は刺数によって生じるのではなく、刺激の解釈などの認知的変数によって生じる」と考える。CBTの技法の目標は、認知と感情、行動の関連に注目しながら、患者が自分の認知の不適確さに気づき、それを理解して問題に対処する新しい方法を学習するように手助けすることである。
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