神経眼科と羞明というシンポジウムが金沢の日本神経眼科学会で11月29日に開かれました。
S1-1 :羞明と神経眼科疾患 山上明子 井上眼科病院 神経眼科では眼球内以外の羞明を扱う事が多く、視路病変、頭蓋内病変、薬剤でも生じる。MRIで構造的異常を示さない片頭痛、眼瞼痙攣、ビジュアルスノウ、脳精髄圧減少症眼球使用困難症も鑑別を要する。
S1-2:羞明・疼痛を訴える患者からみた羞明の機序解明と治療の模索について 原直人 国際医療福祉大学 保健医療学部視椴能療法学科:羞明は1934年にLebensohnにより記述された。Digreはこれをphotophobiaと呼んだ。視床下部ほかの大脳辺縁系で情報処理がされる。羞明は視覚的生活の質を低下させる。Utah Photophobia Symptom Impact Scale (UPSIS)で評価し、瞳孔反応や視覚誘発電位などでアプローチする。
S1-3:羞明を来たす神経疾患の病態と治療 秋山 久尚(あきやまひさなお) 聖マリアンナ医科大学 脳神経内科学:羞明は現在も一定のコンセンサスは得られてはいない。原因疾患には眼窩や視覚視路の障害、神経疾患、精神疾患、薬剤性誘発も含まれる。片頭痛では青色光480nmに反応するメラノプシンを含む内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cells: ipRCG)の関与が論じられる。抗CGRP関連抗体が光過敏の改善に一翼を担う。
S1-4: 直接光と反射光の違いによる人の眼に対する影響の違いについて 澤田真如 Essence research 株式会社:演者は元々麻酔科医であり、強い羞明に苦しんだ。そして現在は特殊な反射型ディスプレーの開発者である。眩しさの軽減には光を天井に当てて反射光で撮影するバウンス撮影が参考になる。紙の上の文字を読む時の拡散光の低刺激性が理想であり、反射光で読ませるディスプレーを開発している。
S1-5:羞明に関する臨床と研究について 仲泊聡 東京慈恵会医科大学眼科学、理化学研究所:羞明対策には遮光眼鏡が重要だが、環境に応じて、コントラスト感度の改善する物の選定が必要。屋外での眩しさ軽減だけでなく、屋内では外すことで暗順応を促進する意味もある。すりガラス状のレンズは羞明を増し、背景が明るいと羞明は増す。ヘイズ値の調整で視覚野ダイナミックレンジが変わる。メラノプシンの関与も明らかになった。短波長光が網膜細胞の再防止にも関連している。
用語
◎内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cells: ipRCG):内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cells: ipRCG)と羞明に関して簡便に説明します。:内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGCs)は、網膜に存在する特殊な神経節細胞の一種で、主にメラノプシンという光感受性タンパク質を持っています。ipRGCsは、通常の視覚経路ではなく、以下のような非視覚的な機能に関与します。
- ipRGCの役割
- 概日リズム(サーカディアンリズム)の調節
ipRGCsは、青色光(波長約480 nm)に特に感受性があり、視交叉上核(SCN)に信号を送ることで体内時計を調整します。 - 瞳孔反応の調節
ipRGCsは視蓋前核(Pretectal nucleus)にも信号を送ることで、瞳孔の収縮反応に関与します。
- 羞明との関連
羞明(光過敏症)は、光刺激が過度に不快または痛みを伴う状態を指します。ipRGCsは光刺激に直接反応するため、特に青色光の影響を受けやすく、以下のような状況で羞明に関与すると考えられます。
- ipRGCの過敏性:ipRGCが過剰に活性化されると、羞明症状が増強される可能性があります。
- 神経伝達の異常:ipRGCを介する神経経路の過敏性が、羞明の原因の一部となることがあります。
- 臨床的意義
- 羞明の評価
ipRGCの機能に関する研究は、羞明の評価や治療法の開発に役立つ可能性があります。特に青色光に対する感受性を測定することで、ipRGCの関与が評価できます。 - 遮光対策
ipRGCは青色光に特に敏感なため、遮光眼鏡(青色光カットレンズ)が羞明症状を軽減することがあります。
簡単にまとめると:
ipRGCsは青色光に敏感で、概日リズム調節や瞳孔反応に重要な役割を果たしますが、その過剰な活性化や神経経路の異常が羞明症状に関与すると考えられています。青色光カットレンズなどの対策が、症状緩和に有効な場合があります。
◎CGRP:羞明(光に対する過敏性)に関連するCGRP(Calcitonin Gene-Related Peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、神経伝達物質であり、偏頭痛や羞明に関与する神経学的なメカニズムの中で注目されている物質です。以下にCGRPについて詳しく説明します。
CGRPとは
- 構造: CGRPは神経ペプチドの一種で、特に三叉神経系で多く分布しています。α-CGRPとβ-CGRPの2種類があり、主にα-CGRPが人間の神経系において重要です。
- 作用: 強い血管拡張作用を持ち、神経炎症(neurogenic inflammation)に関与しています。主に三叉神経から分泌され、脳血管や神経に作用します。
羞明とCGRPの関係
- 光刺激とCGRPの活性化:
- 光刺激が視神経を介して視覚皮質や三叉神経に伝わると、CGRPが放出される可能性があります。
- CGRPは神経の興奮性を高めるため、羞明感覚の増幅に寄与することが考えられています。
- 偏頭痛との関連:
- CGRPは偏頭痛の発作時に高レベルで放出されることが知られています。偏頭痛患者では羞明がしばしば見られ、CGRPが羞明感受性を高めている可能性があります。
- 偏頭痛治療薬の中にはCGRPの活性を抑制するもの(CGRP受容体拮抗薬やCGRPモノクローナル抗体)があり、これらは羞明を軽減することも期待されています。
- 神経炎症と羞明:
- CGRPが関与する神経炎症が光感受性を高める可能性があります。この炎症性機構により、羞明が慢性化することも考えられます。
臨床的意義
- CGRPは羞明を伴う疾患、特に偏頭痛における治療ターゲットとなっています。
- CGRPを標的とした治療薬は、偏頭痛発作の予防や治療に効果があり、一部の患者では羞明症状の緩和にも役立つ可能性があります。
研究の方向性
- CGRPが羞明の発症や重症度にどの程度関与しているかについては、さらなる研究が必要です。
- 羞明を主訴とする患者において、CGRP拮抗薬や関連治療の有効性が注目されています。
CGRPは神経ペプチドとして、羞明の病態における重要な役割を果たす可能性があるため、偏頭痛や神経炎症の治療研究と並行して研究が進められています。
◎ヘイズ値:
ヘイズ値(Haze value)は、材料や光学製品の透明性や曇りの度合い(くもり具合)を定量的に評価する指標です。特に、プラスチック、ガラス、フィルムなどの透明な材料や眼科関連では角膜やレンズの透明度の評価に使われます。以下に詳しく説明します。
ヘイズ値の定義
- ヘイズ値は、透過光の中で散乱光の割合を表す値です。
- 数式で表すと: Haze=散乱光の透過率全透過率×100(%)\text{Haze} = \frac{\text{散乱光の透過率}}{\text{全透過率}} \times 100 (\%)Haze=全透過率散乱光の透過率×100(%) ここで、
- 散乱光透過率:材料を通過する際に、光が散乱して元の進行方向を外れた部分。
- 全透過率:材料を通過する全ての光の割合(直進光+散乱光)。
ヘイズ値の特徴
- 単位:パーセンテージ(%)で表されます。
- 範囲:0%(完全に透明)から100%(完全に不透明)。
- 低ヘイズ値(0〜10%):透明でクリアな材料。
- 高ヘイズ値(50%以上):曇りや散乱が多い材料。
測定方法
ヘイズ値は、通常、専用の装置(ヘイズメーターや分光光度計)を用いて測定します。これらの装置は、試料に光を当てて、透過する光の散乱成分と直進成分を分離して測定します。
用途・応用
- 産業分野
- プラスチックやフィルムの品質管理:
- 包装材やスクリーンなどで透明度や見た目の品質を保証する。
- ガラス製品:
- 窓ガラスや自動車用ガラスの透明性を評価。
- 光学デバイス:
- スマートフォン画面やレンズのクリアさ。
- 眼科分野
- 角膜混濁の評価:
- 角膜の透明性が低下した場合(例:角膜瘢痕、炎症)、ヘイズ値を用いて視覚障害の程度を定量化します。
- 眼内レンズ(IOL)の評価:
- 白内障手術で挿入されるレンズの透明性や性能をチェック。
- レーザー治療後の評価:
- LASIKやPRK後に角膜の混濁(ヘイズ)が残る場合、その程度を評価します。
眼科での例
角膜ヘイズ
- 背景: 外傷や手術、感染、または治療後の角膜における瘢痕形成や組織の不透明化。
- 影響: 視力低下、グレア(眩しさ)、コントラスト感度の低下。
- 評価: ヘイズ値を用いることで、客観的な評価が可能。
まとめ
ヘイズ値は、材料や角膜などの透明度を科学的に評価するための重要な指標です。特に眼科領域では、角膜の透明性低下を数値化し、治療の進行状況をモニタリングする際に役立ちます。
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