慢性のぶどう膜炎が時々おきて、その結果緑内障を発症して視野欠損の強い患者さんが居ます。ポスナーシュロスマンに似た症状ですが、嘗て大学病院での検査ではサイトメガロウイルス感染も疑われています。現在眼圧降下剤とステロイドで眼圧は落ち着いています。今後の診断に必要な検査と治療法についての概要を考えてみます。
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この症例は「繰り返す軽度前部ぶどう膜炎と眼圧上昇」を呈する点で、Posner-Schlossman症候群(PSS)様ですが、サイトメガロウイルス(CMV)関連ぶどう膜炎(特にCMV前部ぶどう膜炎)の可能性もあるというご指摘は極めて重要です。
以下に、今後の診断・検査の進め方と治療の選択肢を整理してご紹介します。
- 疾患の鑑別と特徴
疾患名 |
主な特徴 |
視神経障害との関連 |
PSS |
片眼性の再発性軽度前房炎、散瞳、高眼圧(しばしば50 mmHg超)、発作性 |
再発により視神経障害を来すことがある |
CMV前部ぶどう膜炎 |
若年〜中年男性に多く、角膜内皮炎やstellate KPs、眼圧上昇を伴う |
繰り返す高眼圧発作で緑内障進行あり |
- 診断に必要な検査
① 房水PCR検査(必須)
- 目的:CMV、HSV、VZV、EBV、トキソプラズマなどのウイルスDNAを検出
- タイミング:活動期の炎症があるときに施行するのが望ましい
- 方法:前房穿刺により房水0.1〜0.2mLを採取し、ウイルスDNAの定量PCRへ提出
② 眼底検査/OCT/視野検査
- 視神経乳頭の陥凹拡大や視神経線維層欠損の確認
- 緑内障進行の評価
③ 角膜内皮撮影
- CMV関連前部ぶどう膜炎では、角膜内皮細胞減少が認められることがあるため、経過観察に有用です。
④ 血液検査(補助的)
- CMV IgG、IgM、炎症マーカー(CRP、ESR)
- 全身疾患の関与を除外する目的でACEやリウマトイド因子なども考慮
- 治療の概要
- 眼圧コントロール
- 点眼薬(β遮断薬、α2作動薬、プロスタグランジン、炭酸脱水酵素阻害薬など)
- 内服アセタゾラミド(発作時の短期使用)
- 手術的治療(緑内障が進行する場合には手術も選択肢:MIGSや線維柱帯切除術など)
- 抗ウイルス治療(CMV陽性が証明された場合)
薬剤 |
投与経路 |
期間 |
注意点 |
ガンシクロビル点眼(0.15%) |
点眼 |
数週~数ヶ月 |
一部施設で院内製剤 |
バルガンシクロビル内服 |
経口 |
初期900mg×2回/日×21日→維持900mg/日 |
骨髄抑制・腎機能モニタリング必要 |
※ 抗ウイルス薬の効果判定には、再燃頻度や眼圧の安定性、内皮細胞障害の進行などを評価
- ステロイド治療
- 活動性炎症が強い場合、ステロイド点眼(フルメトロン・プレドニン)や短期の内服プレドニンを併用
- 長期使用による眼圧上昇に注意が必要
- 経過観察と予後
- 再発リスク:CMV陽性例では再燃を繰り返すことが多く、長期管理が必要
- 緑内障進行防止が最も重要な管理目標
- 抗ウイルス薬の長期維持療法が奏功する場合も多いが、副作用に注意
まとめ
「繰り返す軽い炎症と眼圧上昇をくり返す病気には、ウイルス感染が関与している場合があります。ウイルスを調べるには眼の中の水(房水)を少しだけ採って、ウイルスの遺伝子があるか調べる検査(PCR)が役立ちます。診断がついたら、ウイルスを抑える治療(抗ウイルス薬)と、眼圧を下げる治療を組み合わせて行うことが大切です。」
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