レーベル病に対すして、遺伝子を導入して視力を回復させるという戦略での研究の最新の動向を問われました。今回の日本眼科学会でも関連の演題が見られました。現在私が患者さんを紹介できるという意味ではありませんが、本日時点での調査結果を此処に記載しておきます。:
レーベル遺伝性視神経症(Leber’s Hereditary Optic Neuropathy: LHON)に対する遺伝子導入治療(遺伝子治療)は、現在、世界各国で研究・開発が進んでおり、いくつかの先進的な治療法が臨床試験段階に入っています。以下に、最新の研究動向と主要な臨床試験・開発企業を挙げ、ポイントをまとめます。
1. 概要:LHONにおける遺伝子治療の基本的なアプローチ
LHONは、主にミトコンドリアDNA(mtDNA)に変異があることによって生じる視神経の疾患であり、現時点での根治療法は存在しません。
遺伝子治療では、**変異したミトコンドリア遺伝子(特にND4)**の機能を補うため、核DNAに正常なND4遺伝子を導入し、それをミトコンドリアで発現させる「オールトロピー戦略(allotopic expression strategy)」が主流となっています。
2. 世界の主要な研究・臨床試験の事例
● GenSight Biologics(フランス)
-
治療名:GS010(商品名 Lumevoq)
-
対象遺伝子:ND4遺伝子変異(m.11778G>A)
-
方法:アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた網膜内注射
-
試験段階:欧州での第III相試験(REVERSE試験、RESCUE試験)を完了。
-
結果:
-
両眼視力の改善(プラセボ眼にも効果)という予想外のバイラテラル効果が報告され、科学界で注目。
-
欧州では条件付き承認申請中(EMAでの評価段階)。
-
FDAでは追加試験の要請により、米国での承認はまだ。
-
● Huazhong University of Science and Technology(中国)
-
研究名:rAAV2-ND4
-
方法:AAV2ベクターを用いた単眼網膜内注射
-
成果:初期の治験で安全性と視力改善例が報告されている(2017年にNature誌に掲載された症例あり)
● スペイン:Barraquer Eye Hospital などでの研究
-
ベクター:AAVベクター
-
内容:ヨーロッパ各国でND1やND6変異を対象とした小規模治験が進行中。
● 日本国内の動向
-
日本では治験段階にはまだ達していませんが、慶應義塾大学・大阪大学などの研究グループで、AAVを用いた遺伝子導入研究が進められています。
-
近年では「ミトコンドリア病に対する遺伝子治療」一般の研究枠としてLHONも対象に含まれつつあります。
3. 課題と今後の方向性
課題 | 内容 |
---|---|
ミトコンドリアDNAは遺伝子導入が困難 | ミトコンドリア内への直接導入が技術的に難しいため、核DNAへの導入→タンパク輸送が必要。 |
バイラテラル効果の機序不明 | 一方の眼の治療で両眼に効果が出た理由がまだ完全には解明されていない。 |
変異のタイプによって効果が異なる | 主にND4変異での効果報告があり、ND1やND6変異にはさらなる研究が必要。 |
費用・倫理的問題 | 保険適用や長期効果・副作用の評価が必要。 |
4. 家族への説明のためのポイント(要約)
-
レーベル病(LHON)は、ミトコンドリアDNAの変異により若年男性を中心に急激な視力低下を生じる病気です。
-
現在、有望な**遺伝子治療(特にND4変異)**が欧州を中心に開発されており、一部では視力改善も確認されています。
-
日本ではまだ治験段階にはありませんが、将来的に承認される可能性があります。
-
治療は目に薬剤を注射する方法で、1回の治療で両眼に効果が出る可能性もあります。
-
家族歴がある場合は早期の眼科受診と遺伝カウンセリングが重要です。
コメント