【大人のぶどう膜炎:疫学と治療の最前線】
緒言から見える本論文の意義
ぶどう膜炎は虹彩・毛様体・脈絡膜を含むブドウ膜の炎症で、充血、痛み、羞明、飛蚊症、かすみ目といった視機能障害を引き起こします。世界的に視力障害や失明の主要因の一つであり、米国および欧州では視覚障害の3~10%、低中所得国では最大25%の失明がぶどう膜炎に関連していると報告されています。米国の保険記録解析では、非感染性の中間・後部・汎ぶどう膜炎の患者の5%が5年以内に失明または重度の視力障害に至ることが示されています。
本レビューの目的は、成人におけるぶどう膜炎の発症メカニズム、分類、診断、治療に関する最新のエビデンスを概観し、特に非感染性後部ぶどう膜炎や汎ぶどう膜炎の免疫治療の進展を焦点としています。
要旨を中心とした内容の整理(ブログ記事形式)
ぶどう膜炎は、虹彩・毛様体・脈絡膜を含む「ブドウ膜」に炎症が生じる疾患で、視覚に多彩な障害を引き起こします。発症は20~50歳代に多く、主に前部(虹彩、毛様体)、中間部(扁平部)、後部(脈絡膜、網膜)、汎(全体)に分類されます。
高所得国では感染性ぶどう膜炎の原因としてトキソプラズマ症、ヘルペス、結核、HIVなどが主で全体の10〜20%を占めますが、半数近くが特発性、そして全身性自己免疫疾患(ベーチェット病、サルコイドーシス、軸性脊椎関節炎など)と関連しています。
治療の原則は、視力を守りながらコルチコステロイド使用量を最小限に抑えることです。
- 前部ぶどう膜炎:点眼ステロイドが第一選択。
- 中間・後部・汎ぶどう膜炎:局所および全身性ステロイド、免疫抑制剤(MTXメトトレキセートやミコフェノール酸モフェチル:(Mycophenolate mofetil, 商品名例:セルセプト®))が用いられます。
- 難治例には、生物学的製剤アダリムマブ(TNF-α阻害薬)が有効で、治療失敗率を約24%改善する結果が報告されています。
感染性ぶどう膜炎では、原因微生物に応じた抗菌薬と必要に応じてステロイドが使われます。
眼科医院長としてのコメント:
このレビューは、私たち眼科医が日常診療で直面する成人ぶどう膜炎への理解を深めるうえで極めて重要です。特に、非感染性ぶどう膜炎の免疫抑制療法に関する近年のエビデンスは、実地診療において患者さんの予後を左右する判断の助けになります。特発性とされていた症例の中にも、今後明らかになる免疫異常や環境要因が潜んでいる可能性があり、全身疾患との連携がより重要になるでしょう。
当院でも、ぶどう膜炎の初診ではまず精密眼底検査と眼底三次元OCTを行い、必要に応じて血液検査や膠原病内科への紹介を併用しています。進行例や再発例には、リウマチ科との連携により、患者ごとの治療計画を慎重に立てています。
ぶどう膜炎の診療は眼だけでなく全身を診る目を養う良い機会です。最新の知見を日常診療に取り入れ、患者さん一人ひとりの視力と生活の質を守る診療を続けてまいります。
2025年5月28日
関連文献:大人のぶどう膜炎レビュー パナイオティス・マグスードルー博士2;ほか
JAMA。 2025年5月28日公開 doi:10.1001/jama.2025.4358
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