糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.3638] 糖尿病の薬が「目」に与える意外な影響とは?──糖尿病性黄斑浮腫と全身薬の関係:論文紹介

糖尿病の薬が「目」に与える意外な影響とは?──糖尿病性黄斑浮腫と全身薬の関係

清澤のまとめ:GLP-1 RAを使用していた患者は、使用していない人よりもDME糖尿病黄斑浮腫の発症リスクが23%低下していた。然し、カルシウムチャネル遮断薬(CCB)を使っていた患者は、なんと66%もリスクが増加していたという驚くべき結果でした。

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 糖尿病性黄斑浮腫(DMEDiabetic Macular Edema)は、糖尿病網膜症の合併症として発症し、視力を著しく低下させる代表的な眼疾患です。特に2型糖尿病(T2DM)の患者さんでは、この病気が失明の大きな原因になっています。黄斑浮腫とは、眼底の黄斑部(視力の中心を担う網膜の要所)に浮腫=むくみが生じることで、物がゆがんで見えたり、中心が暗く見えたりします。進行すれば視力を失うこともあるため、早期発見と治療が重要です。DMEの治療は、これまで抗VEGF薬(硝子体内注射)などの眼局所療法が中心でしたが、最近注目されているのが「全身薬(内服薬)がDMEの発症にどう影響しているか」という新たな視点です。

今回ご紹介する研究は、アメリカの電子カルテデータを用いた大規模な解析で、糖尿病治療に用いられる一般的な薬剤DMEのリスクに与える影響を調査したものです。

対象となった薬剤は次の4つ:

  1. GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA:近年注目されているインクレチン関連薬で、体重減少にも効果があります。
  2. フェノフィブラート:脂質異常症の薬ですが、眼への保護効果も報告されています。
  3. チアゾリジンジオン類(TZD:インスリン抵抗性を改善する薬。
  4. カルシウムチャネル遮断薬(CCB:高血圧の治療薬。

2004年から2024年にかけての患者データをもとに、薬を新たに使い始めた糖尿病患者と、それを使っていない対照群を比較して、DMEの発症リスクを統計的に解析しました。

研究の結果:

  • GLP-1 RAを使用していた患者は、使用していない人よりもDMEの発症リスクが23%低下していました(HR: 0.77)。
  • フェノフィブラート使用群でも17%リスク低下HR: 0.83)という結果が出ています。
  • 一方、カルシウムチャネル遮断薬(CCB)を使っていた患者は、なんと66%もリスクが増加していました(HR: 1.66)。
  • チアゾリジンジオン類(TZD)では、リスクの増減に有意差は見られませんでした。

なぜ薬で目の病気が変わるのか?

DMEの背景には、血管からの漏れ、炎症、酸化ストレスなどの複雑な病態があり、それぞれの薬がこれらの要因にどう働くかが影響します。たとえばGLP-1 RAは抗炎症作用を持つ可能性があり、フェノフィブラートは網膜血管の安定化作用があると考えられています。逆にCCBは血管透過性に影響を与え、網膜内の水分バランスを崩すことがあるとされ、DMEを悪化させる可能性があるという見解もあります。

眼科と内科の連携が大切

今回の研究は、眼の病気が「全身の薬の影響を受ける」ことを示した点で非常に意義深いものです。特にDMEのリスクがある糖尿病患者さんにとって、内服薬の選択が目の健康にまで影響する可能性があるということは、治療方針の見直しにもつながります。

眼科医としても、患者さんがどのような内科的治療を受けているかに目を向け、内科の先生と情報を共有することが重要です。

今後も、このような視点を持った研究が進むことで、よりよい糖尿病合併症の管理が期待されます。

出典
Systemic Medications and Risk of Diabetic Macular Edema in Type 2 Diabetes
Jawad Muayad
, Ophthalmology Retina, Volume 9, Issue 6, June 2025.

追記:なぜカルシウムブロッカーが黄斑浮腫に関連するのか?考えられる機序は?

CCBと黄斑浮腫の関連:考えられる機序

a. 血管透過性の亢進

  • CCBは血管平滑筋を弛緩させることで血圧を低下させる薬ですが、その作用により網膜毛細血管の透過性が上昇する可能性があります。

  • 特に、網膜の**内皮細胞バリア(blood-retinal barrier)**が糖尿病で既に脆弱になっているところに、血流変化や間質圧の変動が加わることで、浮腫が誘発されやすくなると推察されます。

b. VEGFとの関連

  • CCBが血管内皮増殖因子(VEGF)発現を間接的に増加させる可能性が指摘されています(完全に確立はしていませんが)。

  • VEGFは黄斑浮腫の主要因子であり、VEGF増加→血管透過性亢進→浮腫、というメカニズムを悪化させる可能性があります。

c. 腎機能障害や他の共変量

  • CCBは腎障害を有する高齢糖尿病患者に処方されることが多く、これらの因子自体がDMEのリスクでもあります。

  • つまり、交絡因子としての高齢・腎症・重症糖尿病を持つ集団にCCBが多く処方されている可能性もあります。

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