[No.4091] 「路端に咲くハナトラノオ ― 紫の穂が教える“順応の美学”と目の健康」

高円寺の路を歩いていて、ふと目に留まった淡い紫の花。それはハナトラノオ（花虎の尾）という秋の花でした。英名では「Obedient Plant（従順な植物）」と呼ばれ、花を軽く動かすとその位置で留まる不思議な性質があります。まっすぐ伸びた穂の姿が虎の尾のように見えることから、この名前がついたといわれます。

ハナトラノオの特徴と生命力

ハナトラノオは北アメリカ原産のシソ科多年草で、7〜10月に紫から淡桃色の花を穂状に咲かせます。日当たりや水はけの良い場所を好み、地下茎を伸ばして年々群生していく丈夫な植物です。環境の変化にもよく耐え、まるで自然の中で静かに「適応して生きる」力を体現しているようです。花言葉は「順応」「希望」「快活」。そのしなやかな姿勢は、人の健康、特に加齢や環境変化に柔軟に向き合う眼の働きにも通じます。

 紫の花が伝える「光への適応」と目の働き

ハナトラノオの紫色は、自然界の中で光から身を守るための色です。紫色の植物には、紫外線を吸収して自らを守るアントシアニンという色素が多く含まれます。

このアントシアニンはブルーベリーなどにも含まれ、網膜のロドプシン再合成を助けて夜間視力（暗順応）を支える作用があることで知られています。つまり紫の花は、光に適応するための自然の知恵を象徴しています。私たちの目もまた、強い日差しから薄暗い夕暮れまで、常に環境光に合わせて調整しています。スマートフォンやパソコンの光にさらされがちな現代人にとって、この「光への順応力」を保つことが、眼の健康を守るうえで重要なのです。

花が教える「順応の美学」と眼のケア

眼科診療でも、ハナトラノオのような“しなやかな適応力”が大切です。たとえば老視が進んでも、遠近両用眼鏡で見え方を補うことができます。白内障が始まっても、早めの診断と手術で明るさを取り戻せます。重要なのは、変化を恐れず、無理なく順応する姿勢です。この花を眺めていると、環境に合わせて静かに咲く美しさの中に、人の健康のあり方が重なって見えてきます。

清澤のひとこと

高円寺の路端に咲いていたこの花は、車の音や人の流れの中でも穏やかに咲いていました。シソ科といわれると確かに紅シソの花に似ています。私たちの生活もまた、喧噪の中に「静かな目の休息」を見つけることが大切です。遠くの花や緑を眺めて焦点を緩める時間を持つことで、眼の緊張を解き、自律神経のバランスを整えることができます。紫の穂をまっすぐに伸ばすハナトラノオのように、環境に逆らわずに順応しながら生きること――それが、心と目の健康を守る第一歩です。