ピックルボールの流行とともに増える「目のけが」 ― 楽しむために知っておきたい眼のリスク
近年、アメリカを中心に人気が急上昇しているスポーツ「ピックルボール」。テニスや卓球、バドミントンを合わせたような競技で、手軽に始められ、年齢を問わず楽しめるのが魅力です。日本でも徐々に広まりつつあります。ところが、その人気の陰で「目のけが(眼外傷)」が増えているという報告が、医学誌『JAMA Ophthalmology』(2025年10月)に掲載されました。今回はその内容を、眼科医の立場からわかりやすく紹介します。
■ どんなけがが増えているのか
アメリカの救急部門のデータを調べた研究では、2005年から2024年までの間に、ピックルボールによる眼のけがが急増していることがわかりました。
2024年だけで約1,200件、10年間の合計では3,000件を超えると推定されています。特にここ数年は、毎年400件以上ずつ増えているとのことです。
けがの内訳をみると、50歳以上のプレーヤーが約7割を占め、若い世代よりも約4割多い頻度で発生していました。主な原因は次の3つです。
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ボールが直接目に当たる(約4割)
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転倒(約3割)
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パドルがぶつかる(約1割)
軽い打撲やまぶたの切り傷、角膜の擦り傷などの軽症も多い一方で、網膜剥離・眼球破裂・眼窩骨折・前房出血といった、視力を失う危険のある重い外傷も報告されています。
■ なぜ目のけがが増えているのか
ピックルボールはコートが小さく、ネット越しにボールが素早く行き交うため、反応時間が短くなります。とくに年齢を重ねた人では反射神経や筋力が低下し、ボールを避けにくくなります。
また、ピックルボールでは保護メガネの着用が義務づけられていないため、飛んできたボールが直接目に当たるリスクが高いのです。
さらに、屋外や体育館の床の劣化などで転倒しやすい環境も、外傷リスクを高めています。研究者は、「高齢のプレーヤーでは転倒によるけがが多いと思っていたが、実際はボール直撃が最も多かった」と驚きを語っています。
■ 眼科医から見た注意点
角膜擦傷や軽い打撲であれば回復しますが、網膜剥離や眼球破裂などの重症例では失明につながるおそれがあります。
特に近視が強い人、白内障手術後の方、抗凝固薬を服用している方は、眼の内部構造が弱くなっていることがあり、より注意が必要です。
ピックルボールを楽しむ際は、次の点に気をつけてください。
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保護メガネを着けること。 ポリカーボネート製のスポーツ用アイウェアがおすすめです。
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コートの安全を確認。 すべりやすい床や照明の反射にも注意しましょう。
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体の準備を整える。 筋力・バランス・反射速度を高めるトレーニングも有効です。
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もし眼を打ったら、すぐに眼科へ。 「少し赤い」「痛いだけ」と軽視せず、早めの受診が大切です。
■ 院長からのメッセージ
ピックルボールは、年齢を問わず楽しめるすばらしいスポーツです。しかし、目の構造は非常に繊細で、一瞬の衝撃で大きな障害を残すことがあります。特に中高年の方では、視力の予備力が少なく、軽い打撲でも回復に時間がかかることがあります。
今回の研究は、単なるスポーツ外傷の話ではなく、「健康づくりのつもりで始めた運動が、思わぬ視力障害につながることもある」という警鐘です。楽しく続けるためにも、「目を守る準備」を忘れないようにしたいものです。
出典
Lacher CR et al. Pickleball-Related Ocular Injuries Among Patients Presenting to Emergency Departments. JAMA Ophthalmology, 2025年10月16日. DOI:10.1001/jamaophthalmol.2025.3577.
Rodgers L. As Pickleball Continues to Gain Players, Injuries Are Increasing. JAMA, 2025年10月17日. DOI:10.1001/jama.2025.18833.



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