眼瞼痙攣

[No.4179] 片側顔面けいれん──まぶたのピクつきから始まる神経の病気


片側顔面けいれん──まぶたのピクつきから始まる神経の病気

まぶたのけいれんが片側の顔全体に広がっていく──このような症状で受診される方は少なくありません。最初は「疲れ目かな」「ストレスのせいかな」と思っているうちに、症状が頬や口元まで及び、目を閉じたままになってしまうほど強いけいれんに悩まされる方もいます。この病気が「片側顔面けいれん(hemifacial spasm)」です。


原因:顔面神経を圧迫する血管が主な犯人

顔の筋肉を動かす神経(顔面神経)は、脳の深い部分から出て耳の後ろを通り、顔全体に広がっています。

この神経の根もとが脳の血管に触れて圧迫されることで、神経が過敏になり、筋肉が不随意に収縮してしまうのが主な原因です。これを「微小血管圧迫(neurovascular compression)」と呼びます。

一方で、血管の圧迫が明確に見えない例も少なくありません。神経の脱髄(絶縁膜の損傷)や過去の炎症の後遺症などが関係している場合もあります。したがって、全例で「圧迫血管が原因」と断定できるわけではありません


診断:MRI検査を行う理由

初診時にはMRI検査をお勧めすることがあります。

その目的は、①脳幹部の腫瘍や血管奇形などを除外すること、②顔面神経がどの血管にどのように接しているかを確認するためです。特にMRA(磁気共鳴血管撮影)を組み合わせると、血管と神経の位置関係が立体的に描き出せます。

MRIで異常がなくても診断は可能で、症状の典型的な経過(まぶたから始まり口元へ広がる片側性のけいれん)があれば、臨床的に「片側顔面けいれん」と判断できます。


治療:第一選択はボトックス注射

現在、最も標準的で安全性が高い治療法は「ボツリヌス毒素(ボトックス)注射」です。

これは顔面けいれんの原因そのもの(血管の圧迫)を直接取り除くわけではありませんが、過剰に収縮している筋肉の緊張をゆるめ、けいれんを抑える効果があります。効果は一般的に3〜4か月続き、その後徐々に元の状態に戻ります。

初回の注射を行ったからといって、一生打ち続けなければならないということはありません。

多くの方は、症状の経過や生活の支障度を見ながら、必要に応じて4〜6か月ごとに追加注射を行う形をとります。

中には、1〜2回の治療でけいれんが長期に安定する方もいます。


手術(微小血管減圧術)は限られたケースで

MRIで明らかに血管が神経を強く圧迫しており、ボトックス注射で十分な効果が得られない場合には、**脳神経外科で「微小血管減圧術(MVD)」**が検討されます。

これは耳の後ろを小さく開け、顕微鏡下で神経と血管の間に小さなクッションを入れて圧迫を取り除く手術です。

ただし、手術を選択するのは全体の患者さんの10%未満です。

手術には一定のリスク(聴力障害、顔面神経麻痺、再発など)も伴うため、まずはボトックス治療で経過を見るのが一般的です。


まとめ

片側顔面けいれんは、**「命に関わる病気ではないが、生活の質を大きく損なう病気」**です。

MRIで原因を確かめ、まずはボトックス注射で安全に症状を抑えることが第一歩。

そして、必要に応じて治療間隔を調整しながら、無理のない形で症状の安定を目指していきます。

当院では初診時にMRI検査の必要性を丁寧に説明し、ボトックス治療を行う際も痛みを最小限にする工夫をしています。

気になる症状が続く場合は、早めの相談をおすすめします。

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