◎ 眼瞼痙攣における羞明とはどういうことか?
自由が丘清澤眼科 清澤源弘
◎ 今年の秋の眼瞼痙攣患者友の会の次回の総会で、会長さんに眼瞼痙攣における羞明の機序や解剖、それに対する有効な対応の可能性を説明することを求められました。私は日々眼瞼痙攣患者他で羞明のある人々を扱っておりますが、その答えとなり得る諸研究の調査とその論文説明を現在把握している範囲で纏めてみました。
出てきた9つの論文を「患者さん向け講演で一続きの流れになるよう」順序を組み直し、スライド用読み原稿としてまとめます。最後に「眼瞼痙攣における羞明の総括」も加えました。
原稿
① (光過敏の現在の理解:眼から大脳皮質まで)Noseda R. et al., 2010 “Current understanding of photophobia: from eye to cortex”
光過敏は、単に「まぶしい」感覚ではなく、網膜から視床、皮質に至る神経回路全体で生じることを明らかにした総説です。特に青色光に反応する網膜神経節細胞(ipRGC)が、痛みや不快感を伝える視床に強い信号を送り、光を不快として感じさせる仕組みを整理しています。
②(片頭痛におけるメラノプシン依存性ipRGCシグナルと光過敏) McAdams H. et al., 2018 “Melanopsin-driven ipRGC signaling in migraine photophobia”
片頭痛患者で、ipRGCが青色光に特に敏感に反応し、光過敏の主因となることが示されました。波長特異性に基づき、青色域をカットする遮光眼鏡などの工夫が有効である理由が裏付けられました。
③(青色光は慢性光過敏で視床プルビナールを選択的に賦活する:fMRI症例報告) Chen W. et al., 2021 “Blue light selectively activates pulvinar in chronic photophobia: fMRI case report”
慢性的な光過敏患者のfMRI研究では、青色光刺激で視床の視床枕(プルビナール)が強く賦活されることが示されました。これは、光過敏の“結節点”としてプルビナールが重要な役割を担っていることを支持します。
④(片頭痛スペクトラムにおける視覚ネットワークの画像研究) Puledda F. et al., 2019 “Imaging the Visual Network in the Migraine Spectrum”
片頭痛の画像研究レビューです。視床枕(プルビナール)を中心とした視床の異常活動が、光過敏や視覚症状の背景にあることが繰り返し確認されています。
⑤(ドライアイと光過敏:中枢感作) Rosenthal P. et al., 2016 “Dry eye and photophobia: central sensitization”
ドライアイ患者で見られる光過敏は、角膜からの末梢信号だけでなく、脳の痛みネットワークが過敏化する「中枢感作」によって強められていると報告されました。
⑥ (ボツリヌス毒素Aは慢性眼痛と光過敏における脳活動を低下させる)Moulton E. et al., 2019 “BoNT-A reduces brain activity in chronic ocular pain with photophobia”
慢性的な眼痛と光過敏を持つ患者にボツリヌス毒素Aを投与したところ、脳の痛み関連領域の活動が低下しました。
⑦ (特発性眼瞼痙攣における上丘と外側膝状体の機能障害)Yang J. et al., 2022 “Superior colliculus and LGN dysfunction in idiopathic blepharospasm”
眼瞼痙攣患者を対象にしたfMRI研究で、光刺激に対する上丘、外側膝状体、一次視覚皮質の反応異常が報告されました。
⑧(眼瞼痙攣における進行性視床核萎縮) Xu W. et al., 2024 “Progressive thalamic nuclear atrophy in blepharospasm”
眼瞼痙攣患者でMRIを繰り返し撮影すると、視床核の萎縮が時間とともに進むことが示されました。
⑨(特発性眼瞼痙攣における皮質-基底核ネットワークの変化) Zhang H. et al., 2023 “Cortico-basal ganglia network alterations in idiopathic blepharospasm”
眼瞼痙攣患者では、皮質?基底核ネットワークの機能的つながりに異常があることが示されました。
⑩ 総括:眼瞼痙攣における羞明とは何か
光過敏は、単なる「光に弱い目の症状」ではありません。網膜でのipRGCの反応に始まり、視床プルビナールを経由し、皮質・基底核ネットワークにまで広がる脳全体の異
常な処理が関与しています。眼瞼痙攣では、この過敏な入力が運動回路に結びつき、瞬目や閉瞼痙攣として表に現れます。羞明は「目」と「脳」の双方にまたがる現象であり、治療には末梢と中枢の両方を視野に入れる必要があるのです。
配布資料用:スライドまとめ(日本語題名、著者+年次/英文題名+日本語訳/短い要旨)



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