全身病と眼

[No.4231] 眼窩蜂窩織炎にも関連する「MRSAによる癤(せつ、フルンケル:Furuncle)腫症」

眼窩蜂窩織炎にも関連する「MRSAによるせつ(フルンケル:Furuncle)腫症」

顔やまぶたに起こる化膿と、その治療について

「せつ(癤)」は、医学的には フルンケル(Furuncle) と呼ばれ、毛穴や皮脂腺に細菌が入り込み、赤く腫れて痛みを伴う化膿性の皮膚炎です。原因菌の多くは黄色ブドウ球菌ですが、その中でも抗生剤が効きにくいタイプである MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が関係すると、症状が強く出たり治るまでに時間がかかったり、治っても再発しやすいという特徴があります。

MRSA を持っている(保菌している)人は、鼻の中や皮膚表面に菌が住みついていて、体調が落ちたときや小さな傷ができたときにフルンケルを起こしやすくなります。体幹や四肢にできる場合もありますが、顔に出ると強い痛みを伴い、全身症状が出ることもあります。

フルンケルは、赤く腫れ、触ると熱があり、押すとズキッとするのが特徴です。中心に膿点ができ、自然に破れて治ることもありますが、MRSA による場合には痛み・腫れ・熱感が強く、38度以上の発熱や寒気、倦怠感を伴うことがあります。リンパ節が腫れたり、複数がつながって「よう(癰)」と呼ばれる大きな化膿に進むこともあります。

特に注意が必要なのが、**鼻の周囲や眼の周りにできるフルンケル(せつ)**です。この部分は血管が豊富で、感染が奥深くに広がると「眼窩蜂窩織炎」という重い深部感染症に進むことがあります。眼窩蜂窩織炎は、眼球の周囲の空間に及ぶ炎症で、子どもに多く、進行も早いため早期治療が必要です。

眼周囲にフルンケルができると、まぶたの赤みと腫れが強く、触ると硬いしこりが感じられます。腫れが広がるとまぶたが開きにくくなり、痛みが強くなります。もし炎症が眼窩にまで広がると、眼の奥の痛み、眼の動きにくさ、視力の低下、物が二重に見える、眼が前に押し出されるように見える、といった症状が出てきます。発熱を伴う場合は特に注意が必要で、放置すると視力低下や脳内の感染につながることもあります。

治療は、症状の深さと MRSA の関与の有無によって異なります。軽いフルンケルの場合は、MRSA に効果のある抗菌薬の内服、局所の温罨法(温め)、膿がたまった場合の小さな切開排膿で改善します。皮膚を清潔に保ち、強くこすらないことも大事です。鼻腔内に MRSA がいる場合、ムピロシン軟膏を鼻の中に塗って除菌を行うこともあります。

しかし、眼の周囲に強い腫れや痛みがある場合、発熱がある場合、眼が動かしにくい場合は、眼窩蜂窩織炎を疑います。この場合は外来治療では不十分で、入院し、点滴で MRSA に効く抗生剤(バンコマイシンなど)を使った治療が必要です。CTやMRIで広がりを確認し、膿瘍があれば外科的排膿を行うこともあります。適切な治療を早く始めることで視力を守ることができます。

再発予防として、皮膚への刺激を避け、保湿を心がけ、タオルの共有を避けることが役立ちます。糖尿病がある場合は血糖の管理も大事です。

まぶたやその周囲の腫れは「ものもらい」と間違われやすいのですが、痛みや赤みが強い、発熱がある、視力が変わる、といった症状がある場合は早めに眼科を受診してください。特に小児の眼周囲の感染症は進行が早いため、迅速な対応が視力を守る大切なポイントになります。

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