全身病と眼

[No.1655] 「点眼された薬物の後眼部及び全身への移行」新家眞先生

「点眼された薬物の後眼部及び全身への移行」を新家眞先生が日本の眼科94:4号で説明しています:これは聴講録てきな読後録です。要点は、眼科臨床医は点眼薬の全身的薬理学的効果(即ち全身副作用)に注意しつつ点眼薬を処方しなければいけないと言う事だそうです。

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〔要約〕:点眼された薬物は正常眼では眼球テノン囊に沿って球後に拡散し,そこから後極部網膜に拡散していく。そして確実に薬理効果を表し得る濃度に達している事が実験動物で確認され,ヒトでもそうである事を示唆する臨床的報告が幾つかの点眼薬で報告されている。又点眼された薬物は全身に吸収され,その血漿中濃度は確実に全身各組織の受容体で薬理学的効果を発揮するに至るレベルに達しており,点眼薬の種類によってはその薬理効果―即ち点眼薬の全身的副作用―は臨床的に決して無視できないレベルである

本文抄出: 点眼薬の眼内移行に関しては,薬物をラジオアイソトープ化しその点眼後の放射活性を各眼組織で測定する方法が最も一般的。しかし,網膜のみを凍結下で分離採取する事は極めて難しく、代謝物でないかもあやしい。

点眼された薬物の全身移行による副作用に関しては,特に抗緑内障点眼剤である β- 遮断薬点眼で問題となる。

Ⅰ.点眼薬の局所拡散による後眼部組織への移行(局所移行)
1.実験動物眼での検討:1 日 1 回 Travoprost を 1 週間点眼した場合,点眼後最低約 1 時間は網膜表面で薬理学的濃度が保たれる。点眼薬中の濃度の約十万分の一,約 10-8 M/ℓの値が得られる。経路は?。Autoradiography で結膜囊→眼球壁にそったテノン下腔又はテノン囊→球後組織→後部強膜→脈絡膜→網膜の経路が,実験動物眼で可能性が高い。
2.人眼での検討: 人眼ではその作用部位に血管平衡筋が含まれていない薬物は,網膜に局所拡散していた事を示唆する場合がある。
 炭酸脱水酵素阻害剤は網膜色素上皮細胞に作用し,水の硝子体→脈絡膜に向かう移送を増大させる事が知られている。アトロピン点眼(0.01%~1.0%)が学校近視の進行を用量依存性に遅らせる事はよく知られた事実であるが,その効果は毛様筋弛緩作用よりも,むしろ後極部でムスカリン受容体をブロックする事によるという解釈が現代では一般的となっている。
ある種の PG 系抗緑内障点眼液が特に合併症なく手術を終えた眼内レンズ挿入眼で,高率に囊胞様黄斑浮腫を合併し眼内レンズ挿入眼での使用は禁忌となっているという事実は,眼内レンズ挿入眼では,正常眼と違った点眼薬の後眼部移行ルートをしめす可能性を示唆している。

Ⅱ.点眼薬の局所拡散による球後組織への移行
点眼後,速やかに薬物は結膜囊→テノン囊を介した局所拡散により球後部に到達する事は autoradiography により既に証明されている。

1.実験動物眼での検討
 実験動物眼で,眼圧下降効果とは無関係に点眼後点眼側で対側コントロール眼に比べて,レーザースペックル法で非侵襲的に測定した視神経乳頭組織血流量が,Betaxolol,Nipradilo等の血管拡張作用を併せ持つ β- 遮断薬点眼後に,又 PG 関連薬Latanoprost,Travoprost 及び Unoprostone 点眼後に,有意に増加している事を報告した。
又 PG 関連薬の効果は,Indomethacin 全身投与で抑制される事から,PG 関連薬でのこれらの効果は内因性の PGE2 産生を介してのものである事が分かっている。同様に α-1 刺激薬 phnylephrine 点眼で,視神経乳頭血流が点眼側でのみ低下する事が知られており,これらの結果は何れもAutoradiographyの結果とよく一致している。
2.人眼での検討
 Latanoprost,Unoprostone,Tafluprost,Nipradilol,Carteolol点眼後で,動物眼で得られたのと同様に,点眼側で眼圧下降効果非存性に視神経乳頭組織血流が増加する事が知られている。人眼でも球後組織に点眼された薬物が,動物眼 Autoradiography で示されたと同様に薬理濃度で到達しているのは間違いのない事実であると考えられる。
Ⅲ.点眼薬の全身移行
 点眼薬が全身移行して薬理作用を他臓器に及ぼす場合,それは即ち点眼薬の全身的副作用という事になる。点眼薬の全身移行に関しては抗緑内障 β- 遮断薬点眼剤で詳しく検討されている
 結膜囊内には約 8 μℓの涙液があり,それは大体0.1~0.15 μℓ/分(約 1.5%/分= 100%/時)で,結膜囊から排出されている。点眼される 1 滴は約 40 μℓと考えられるが,そのうち約 30 μℓは眼外にあふれ出す事なく囊内に停まり,30 秒以内にその 80%(約 25 μℓ)は鼻涙管を通して,鼻腔内に排出され全身に吸収される。実際の点眼後の血漿中薬物度については各点眼液の文献に報告されている。点眼後そのような濃度と時間経過を取るに至るのか。受容体に結合し得るのは,遊離型(蛋白非結合型)薬剤なので各薬物の血漿蛋白結合型分率(fu)× Cpが遊離型血漿薬物濃度(Cpf)となる。
 受容体専有率
 薬理学的効果は,受容体専有率(Φ),更に受容体の下流にある細胞内の情報伝達経路と最終的な薬効を表す細胞内機関,もし生理的な Agonistがあればそれらも含めた受容体解離定数や細胞内反応の平衡定数等様々な修飾を受けて発揮される。我々臨床医とすれば点眼後のΦの時間経過を知ればよい。例えば β-1 受容体遮断薬理作用(即ち心拍数抑制率)とΦの関係。点眼後の血漿内濃度は全身投与後のそれに対して数%であるのに対して,全身的副作用に直結する受容体専有率は 80~30%と血漿内濃度比に対して比べ物にならない程高い。その薬理的効果は受容体専有率と大雑把な線形関係にある。我々眼科臨床医は点眼薬の全身的薬理学的効果(即ち全身副作用)に注意しつつ点眼薬を処方しなければいけない

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